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待ちぼうけの雨
撰石積記 vol.12 ~散々だった日~
きのうは本当に、大変だったことからの学び。
人待ち雨。
峠道の途中にある道路わき、広い歩道に大きな松がある。大きいといっても、樹径で30㎝くらいだろうか。この道を通り過ぎるときには、視界に入っていたのでその存在を知ってはいたが…。
よもや、こうして、雨をしのぐためにその樹下にもぐることになるとは…。思いもよらないことだった。
底原ダムの管理事務所、その近くにある広くはないパイナップル畑、道路、それらを除けば、視界に入るのは原生林だけだ。
自分のレンタカーは、いまの場所から500mほど無舗装の細い農道を行った先にとまっている。
15分ほど前に、ぱらぱらと小雨が降ってきた。その時にクルマからこの場所を目指して歩き始めた。その時は「まぁ、大丈夫だろう」と思ったのだが…、そういう能天気な発想が、当てにならないのは常だ。
雨は、止むまで時間がかかりそうだ。
5分に1回くらい、雨の道を慌てて駆け抜けるように、水しぶきをあげながら走り去っていくクルマが通る。それ以外は、誰も来ない。
何でこんなことになるのかと。
石垣島、底原ダムの西の道路わき。
信号もない山の中。
いつか来てくれるのか、と。
待ち続けた。
想定外の仕事
きいてはいたが、ここまでとは…。
仕事で準備していたことが、空振りに終わった。
こんなことになってしまうとは…。なかなか衝撃的だ。
きのうは、10分程度の作業で、さっさを帰るつもりだったのに…。結局、昼飯も食べずに、8時間も作業することになった。
こんなことならと、何度も思った。そんなことを考えても、あとの祭りなのだが…、それでもなにか考えていないと、ココロがつぶれそうだった。
「いまごろ、部屋で本でも読んでいるはずだったのに…」
誰かのせいだと思っても、自分のせいだと思っても、いずれにしてもこの状況に対処するのは自分だけだ。考えても意味のないことを考えながら、ひたすらに手と体を動かし続けた。
こういう作業は、ひとりでやると、なかなかしんどい。
西に日がずいぶんと傾いた頃。とりあえず、その日の作業は終了することにした。そこまで状況は改善された感じはしないが、やるだけはやった。残りは明日だ。
田んぼから上がって、ドロドロになった作業着を着替えてた。着替えているさなかに、ぴゅーッと冷たい風が吹いてきた。見ると、於茂登岳の頂が曇雲を突いていた。さっきまで晴れていたのだが…、一雨来るかもな。
はやくかえって、休もう。
そう思って、そそくさとレンタカーに乗り込んだ。
そしてそのエンジンをかけた。
…。
いつもは元気に動き出すエンジンが。
そのときは、動かなかった。
土曜日の電話
まさか。このタイミングで…。
一瞬、混乱してしまった。
何度も何度もエンジンをかけたが、かからない。
(バッテリーか…。)
ドアを開けっぱなしの時間が長かったせいだろうか。それでダメになってしまったのかもしれない。
(もっと、作業を早く切り上げていれば、こんなことにはならなかった…。)
こまった…。
こんな無舗装の細い農道の先にある田んぼの脇まで、助けに来てもらえるのだろうか…。しかも、土曜の午後5時を過ぎていた。こまった…。
もしかしたら、きょうはここで野宿かもな…。
そんな考えが頭をよぎる。
そんなふうにあきらめるには、まだ早いと、レンタカー店に電話してみることにした。
みれば、スマホの充電は残り12%だ。作業中にspotify でポッドキャストをきいていたからな。なにからなにまで、不都合が重なってくる。
こんなことがあるものなのか。
よっぽど、島の神様に嫌われたらしい。
待ち人、到来前。
雨が降り始めて、ずいぶんと経った。
ずいぶんと言っても、20分ほどだろうか。20分なんて岡山ではちょっと運の悪いタイミングでの電車の待ち時間だ。本来は大した時間でもないはずなのに、さすがにこの状況では、長く感じてしまう。
ずいぶんとながく待っていた。
そのうちに、横から雨が吹き付けるようになった。風が強くなってきたせいだ。こうなると、この松の木ではちょっとココロもとない。
ふと、近くのパイナップル畑の脇にあった、バナナの木が目に入った。
葉の大きくひらいた木の方が横からの雨をしのぐのには向いている。小走りに道路をわたり、どなたの畑か知らない畑の隅にあるバナナの木のしたに、もぐりこんだ。
ここなら、待ち人にも気づけるだろう。
ちょっとは安心する。たいして状況はかわらなかったが、マシになっただけでも、ありがたいものだ。
ふー、っと少し大きく、息をついた。
この時になって、ようやく。
聞こえるようになった。
森におちる、雨の音。
雨をきく。
雨は好きだ。
バナナの木の下で、ひと心地つけるなんて。
なんと、ぜいたくなことか。
「となりのトトロ」で傘に落ちる水滴の音に喜ぶ場面があったが。それをスケールダウンさせると、わたしのような気分になるのだろう。
サーッという森の雨の音の中に。
バナナの葉に落ちる水滴のポツポツという音が混ざる。
それらが奏でる音が。
ココロを潤していった。
現実には何も変化はない。
いまの状況は、絶望的といっては大げさだが、けっこうなピンチだ。
それでも、この状況を楽しもうと思えば。
どうにかなるのか。
「いまの状況を、面白いだなんて、思えるとはな。」
散々だった一日の終わりに、輪をかけたような、この状況にあって。
なんだか。
すごく。
可笑しくなった。
贅沢の終わり
ずっと耳を傾けていたかった。
きけばきくほどに重なる心地良さに。
*****
とはいえ、全てのことには終わりがある。
ふと、一台のランドクルーザーが、水しぶきをあげながら、道を駆け上がってくるのが遠目にみえた。
…待ち人来る、か。
さて、帰ろう。
なんとも贅沢な時間を
過ごしたものだ。
*****
こんな風に思えるように。
ココロの中の余白を。
いつもどこかに残していたい。
森に落ちる雨の音に。
耳を傾けられるくらいには。
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