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第8話「伝え方」

アキは都会に勤めるアラサー。
勤務の隙間の小休憩をとっていた時にどこからか怒号が聞こえてきた。
ああ、またあの人が怒鳴っているのか。
顔を見るまでもなく声だけで誰のものかわかるその声は隣の部署の部長だった。
怒号とも取れるその言動は、隣の部署のアキのところまで悪評は轟いていた。
本人の仕事ぶりは悪いものではなさそうだが、その言動のせいで誰も部長を慕っていない。
勿体無いなとアキは思った。
学生の頃より社会人になってから自分の意思の伝え方の大切さは身に染みて実感している。
アキは次の会議の準備をしながら、そのことについて少し考えてみた。

例えば、先ほどの怒号部長が同じ内容を怒号ではなくもっと穏やかに伝えられたらどうなるだろう。
現に今、隣の部署は最悪の空気だ。目がPCの画面を滑るだけで仕事ができていない社員もいる。
それが、もっと穏やかな物言いだったらもっと違った結果になっていただろう。より意欲的に仕事に向かえるかも知れないチャンスをあの怒号部長は逃したのだ。勿体無い。

それと、怒号のよくないところは伝えたいことが伝わっていない可能性があるということだ。
仕事は意思疎通の繰り返しでできている。お互いの認識を合わせて物事を完成させる。
そのためには丁寧な物言い、穏やかな口調でお互いに冷静に意見や認識のすり合わせが必要となってくる。
そこに怒号が入るとどうなるのか。おそらく伝えたかったことはどこかに消えてしまうだろう。
穏やかに流れていた水の流れが急に激流となってしまう。そこに伝えたかったことの小舟が入るとたちまち沈んでしまうだろう。それを拾える能力がある人はいいが、全員がその能力があるわけでもなく、ましてや新卒の子には全くないと思って接した方が良いだろう。
周りの空気を悪くさせるのみならず、仕事にも滞りが出てしまう。
怒号というのは最悪だ。

しかし怒号部長のように自分が怒鳴って空気を悪くさせてると気がつかないような人もいる。
内省が出来ていない人なのだろう。少し記憶を巻き戻せば相手の表情や言動を見返せれば、自分がしていることが非効率的なことだとわかるだろうに、と思う。
おそらくストレスが溜まってこの形でしか発散できないのだろう。
普段からそういったストレスを職場に持ち込まないように工夫してほしい。今時の若い子達の方がそのへんのマネジメント能力が高いんじゃないかと思う。

そろそろ時間だ。先ほどの怒号部長が課長に呼び出されている。
やっと重い腰を持ち上げたのか。
アキはその様子を横目で見ながら会議室に向かった。

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