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第一話「前世」
アキは都会に勤めるアラサー。
今日も通勤時に、動画を見て時間を潰していた。
ふと、おすすめに前世の記憶を持つ少年のドキュメンタリが上がってきた。普段なら見ないでスルーしてしまうが、今日はなんだか目に止まった。
その少年は、前世の死の瞬間の記憶まで持っているらしく3歳にはその出来事を両親に伝えていた。
その動画を見ているうちに「前世」について少し考えてみようと思い、スマホをしまい目を伏せた。
前世の存在を認めるためには、まず心臓が止まった瞬間が人の死ではないと言うことを証明しなければならない。
すなわち、魂とかそう言うものを認めなければならないということだ。
んー…難しい。魂とは現段階では目に見えない。臨死体験や前世の記憶があるだとかそういうものでは説得力は足りない。
もちろん、否定もできない。「ない」ことを証明することも極めて困難、無理に等しい。
魂に着色ができれば簡単なのに…とも思いながら、一旦別の視点から攻めてみることにする。
魂というものが仮にあるとして、それが使いまわされているということがあるのだろうか。
地球上にある水分子の数は過去も現在も変わらないということを幼い頃に本で見た…気がする。家に帰って確認しないといけないが、それを見て衝撃を受けたことは覚えている。
水分子でさえ数が固定されているということならば、魂の数も固定されていて使いまわされているのも納得がいきそう…ではある。
ただ、魂は物質でできているものなのかにもよるような気がする。
物質として存在しない…つまり人間の認知を超えた先に存在するものだとしたら地球上のルールには当てはめることはできないだろう。
人間の認知を超える場所にあるという考えは良いような気がする。
電車の扉が開きハッと顔を上げた。
最寄り駅の一つ前の駅だった。
アキはホッと一息つき思考に意識を戻した。
と、いうかなんでこんなに人々は「前世」に関心があるのだろう。きっと偉い学者さんとかが大昔から考えているんじゃないか?なのにまだ人類共通の結論が出ていない!
それでも「前世」ひいては「魂」の存在をなんとなく認めている人は多い。
見えていない人が多いのにもかかわらずだ。
実際に経験している人、霊などが見えている人は置いておいて、何にも見えていない人々が信じる理由はなんなのだろうか。
表面上の理由は様々だろうが、本当の心の奥底はもしかしたら一緒なのではないか?
「死」への恐怖がそうさせているのではないか?
殉教という言葉があるように昔の人は、「組織のために自分が犠牲になる」ということがありえた。
だが、本来亡くなるということはとても怖い。これはどの生き物にも脳髄に深く刻まれているはずだ。(そうじゃなかったら、シマウマはライオンから逃げないだろう。)
しかし、その恐怖を乗り越えて多くの方が自らを犠牲にして他者を守ってきた。
それは、「輪廻転生」や「死後の世界」を信じたからというのも信じたからではないか?
こういうものがあることを説明するためには必然的に「魂」というものを用いなければならない。
「肉体は死んでも魂は死なない」と言ったところだろうか。
この世(この言い回し自体が死後の世界もあることを信じていることにもなる)の全てに終わりがあることを否定する凄まじい言い文句だ。
昔の人は頭が良いなぁと思っていたら、最寄り駅を通り過ぎていた。
アキは急いで電車を降りて反対ホームへに向かった。
向かいながらこうも思った。
「…とか、考えても仕方ないんだけどね。」
アキは遅刻理由を考えていた。