夢か現か
7日の夜。
凄まじい雷雨の音。
眠っているのに、耳には激しい嵐の雄たけび。
体の中まで響く。
体の中の何かが叩き壊されてゆくような音。
雨戸が吹き飛ぶのではないか。
家もろともどこかに飛ばされていくのではないか。
そんなことを思いながら
体は嵐の叫び声を
なんとなく快感に感じていた。
体の中の何かがガタガタに壊されてゆく。
壊れるだけ壊れてしまえ……。
近所の内科医にもらった睡眠導入剤のおかげか、
一晩中、ぐっすりと寝た。
夜、目覚め、
不安と孤独に呆然となることもなく。
夜中に一度も目覚めないのは
滅多にないことだ。
携帯の呼び声で目が覚めたら朝の5時。
いつも真夜中の12時、暁どきの3時ごろは
目が覚め
布団の中であれこれ考えているのに
珍しいことだった。
起きた瞬間、
体の中から抗がん剤の毒素が抜けきったことを感じた。
不思議な、神秘的な感覚。
毒が抜けた!
そう感じた。
神秘的な直観だった。
身体が軽い。
表情も軽い。
足取りも軽い。
まっすぐに、元気よく歩ける!
行きつけのウィッグ専門店に行った。
あれこれ買っているわけではない。
そこの店員さんと、なぜか心から話せる友人になったのだ。
彼女は私を見るなり叫んだ。
「すごい元気そう。初めて会った頃のあなたみたい」
「ホント?」
「ほんとうに、ほんとうに元気そう!」
接客室のイスに座り鏡を見る。
われながら、血色も良いし、元気そうだ。
昨日までの自分ではないみたい。
「ガンが消えたのよ。そんなこともあるんだって。
きっとそうよ」
彼女は私のウィッグの手入れをしながら
声を弾ませ、
「奇跡が起こったのよ」
夢か現か。
昨日の嵐が私の体の中から
あらゆる毒素を吹き飛ばしたのかも。
終わり