幸せいっぱいの大あくび
シロはご飯が欲しくなると、硝子戸の向こうで大あくびをしてみせる。
「別に、ご飯、ねだっているわけじゃないんだ。ただ、ちょっと退屈で」なんて言って、物欲しげな素振りは見せない。
ウッドデッキの欄干から落っこちたりしたところを見られた時も、「落ちたわけじゃないよ。ちょっと失敗してみせただけだよ」と言って大あくびをしてみせる。
真剣にわたしにご飯をねだるときは、自分のためではない。母親の和子が来たときだ。「ねえ、ねえ。母ちゃんが来てるから母ちゃんにご飯あげて」と真剣に訴える。
縁側の方に行くと、和子が悠然と座っている。シロは母ちゃんの使い走りをさせられてる?それとも、自ら母ちゃんのために、ご飯をせがんでいるのか。
和子はご飯を食べるとさっさとどこかへ行く。
それでも、シロは嬉しそうだ。朝、昼、夕方と一日3回だけご飯を食べにくる母親と会えるだけで、とっても、幸せなのだ。
和子は、シロにご飯をねだらせているだけのように見えるが、シロの安否を確かめに来るという目的もあるのではないか。
シロはむしゃむしゃ食べている母親を後ろで尻尾を振りながら見ている。
そんな二匹を見ていると、心が安らぐ。心が安らぐと、体の免疫力が上がるような気がする。
わたしの健康に良い影響を与えているのは、この母子猫かも知れない。
正式に「うちの飼い猫」にしたい。
だが、硝子戸を開けると、和子は弾丸のように逃げる。もたもたしているシロを抱いて部屋の中に入れると、ブルブル震えて、半分、腰を抜かしているのだ。
可愛そうになって外に出す。和子とシロにとって、わたしは単なる餌供給係みたい。