廃校が21世紀を救う
廃校に地域力がはじけるとき 3 竹内敏
5 テーマを貫くまつりにする
「ポレポレECOまつり」は、一つの児童福祉施設としては異例の規模のまつりでした。ふつうの児童館の職員数は五~六人の少数職場ですから、やれることには限界がありましたが、ここで展開されたワンダーランドは私の経験値をはるかに越えるものでした。この規模は複数の児童館ブロックでとりくむくらいの規模でした。
地域通貨「ポレマネー」を流通させる
まつり一週問ほど前に特設される「ポレポレ銀行」は、木の実などを集めてポイントを通帳に記秡して「預金」し、10ポイントためると「ポレマネー」を発行するという児章館内特設銀行です。そこで得た地域通貨「ポレマネー」は、まつりや「駄菓子屋すみちやん」で使えます。本格導人は二年目からでした。最初の頃のポレマネーは、どんぐりを金と銀に塗ったものでした。次からは、葉っぱや江戸のデザインをパウチしたカード式のものに進化していきました。おそうじや片づけなどみんなのために役立つ仕事をするとふだんでもポイントをためることもできます。ポレマネーは、「金」によって人間が支配従属され、分断されてしまう現状に対する問題提起でもあります。
幼児連れの家族が休日にどんぐりや松ぽっくりを拾いに行ったり、学童保育にお迎えに来るおじいさんが道すがら木の実を拾ってきたり、高学年は自転車で海側の公園の松林から大量の松ぽっくりを拾ってきたりして、「ポレポレ銀行」に頂けます。そのうちに、「預託」された木の実を使って、工作をしたり、飾り付けをしたり、まつりや日常活動の中で大いに活用することができました。
新鮮などんぐりの一部は、どんぐりコーヒーやどんぐりクッキー・だんごなどにして食べてみました。また、会場には、ポレポレ銀行に染まった木の実や職員が休日に森から拾ってきた珍しい木の実も展示されました。
ポレポレ銀行に集まった木の実は、クヌギのどんぐりが多い年があったり、椎の実が多い年があったり、その年によって傾向があるのも新発見でした。だんだん子どもたちの好きな木の実の傾向もわかってきたのも面白かったです。また、かつては拾ったままの泥つきの木の実をそのまま持ってきていたことがありましたが、今回は洗って持ってきてくれました。
食べて買って終わりのまつりにしない
「子どもまつり」にテーマ(ねらい・目標)をもって臨むというスタイルを当初から堅持していたことは重要なことでした。というのも、私かいままで体験してきた「子どもまつり」はふつう、なんでもごちや混ぜの内容で、職員のなかに「まつり」のねらいや目的・到達目標といったものは充分論議されたことがありませんでした。職員はこまねずみのように忙しく動き回り、自分の得意分野で職人芸を発揮するというスタイルはありましたが、「それでどうするの」「どこまで到達したか」とかの論議ができませんでした。
それは、イベントがアイディアとサービスの範囲を越えず、職員の一方通行的な忙しさで終わっていました。どうも「施設から地域を眺める」ところでとどまり、「地域を巻き込む」という傲慢な発想に陥ってしまう気がしてなりませんでした。しかも、「まつり」といえば、「食べて、買って、遊んで」終わりというのが通例でした。そして、ゴミの山。その大半は、使い捨ての食器でした。
そういう食欲を満たすまつりだけではないイメージのまつりはできないものか、というのが最初の発想でした。そこであるとき模擬店のない、つまり、食べ物のない自然素材を中心とした子どもまつりを実験的にやったことがありました。そこで発見したことは、それでも充分まつりは可能だという手応えでした。そこで学んだことは、お客に媚びないこと、児童館としての年間目標を貫くこと、日常活動の集約として行動をつなげること、子どもの目線に近い遊びをきわめること、獲得すべき「テーマ」をもつこと、参加することで感動するものがあること、子どももおとなも「学べる」まつりは可能であること、ボランティアの成長につながること、自然素材を重視した遊びは充分通用すること、金をかけなくても効果は可能であることなどでした。
これらの体験を生かしたまつりを実現しようというのが「ポレポレECOまつり」の発想でした。これはまだ、職員全体で充分消化されたものではありませんでしたが、それを感覚的ながらきちんと受け止めてくれた職員集団があったというのも欠かせません。実はそういう「まつり」を以前一緒に取り組んだことがあったのが副館長の山田由美子さん(ヤマちゃん)でした。お互いに考えていること、やろうとしていることが「阿吽」の呼吸で想定できる、そういう同志がいたことが弾みをつけたことになります。
6 「エコな江戸」が二十一世紀を救う
幼児クラブのお母さんの会話の中に、「ここは(子ども交流センター)エコなんだよ!」という言葉が使われたことがあります。「ゴミを捨てるとき分別する」「自分たちで出したゴミは持ち帰る」という意味合いで語られます。
「エコロジー」は開館以来のコンセプトでもありました。それは単なるエコな作法というより、循環や社会を実現するための考え方を基礎にしていくということです。そしてそのモデルは、すでに江戸にあったというのも大発見でした。
江戸研究家石川英輔さんは、「日常生活のために本当に必要なものはごくわずかだということ。そして、それを兒極めて必要なものだけを選んで暮らせば、見かけが質素なわりには生活水準を下げずに暮らせるし、江戸時代の先祖は、きわめて洗練された方法で、それに成功していたということである」と拒摘しました。
日本の国土の七○パーセント近くが緑であるというのは、先進資本主義国の中でもひときわ輝く誇りです。しかし、そうした豊かな自然に恵まれた日本であるにもかかわらず、経済効率第一主義のために自然を駆逐し、目に余る環境破壊を見過ごしてしまいました。地方と農林業には、過疎という地域存亡の危機が迫っています。
そういうときこそ、有限の資源を循環させて百万都市を担った「江戸」の生き方は、現代人の生きるべき方向を指し示しているのではないかと思ったのです。究極の環境都市「江戸」に学ぼう! そこにこめられている自然と人間とのほどよい関係と知恵を学ぼう、というのがポレポレECOまつりのねらいです。
第一章 地域と職員の総合力「ポレポレECOまつり
1 「ポレポレECOまつり」の開幕です
2 江戸のまちができていく
3 「子ども時代」を取り戻す
4 「粋なおとな」が江戸を徘徊した?!
5 テーマを貫くまつりにする
6 「エコな江戸」が二十一世紀を救う
7 それは「罵倒」からはじまった
8 グラウンドに突如森ができた
9 愉しさ・美しさ・安らぎが世界を変える