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シティポップ、なぜ火がついたのか  青葉やまと

80年代を中心に流行した日本独自のミュージック・ジャンル「シティポップ」が、40年ほど経たいまになって海外でブームを巻き起こしている。ディガーによる発掘やネットのリコメンドなどを通じ、時を超えてアメリカやカナダなど欧米でファンをひきつけている。

◆奇跡的な時代に流行ったサウンドトラック
 シティポップは洗練された都会のミュージックをイメージしたジャンルであり、70年代後半から80年代にかけて国内で一時代を築いた。洋楽志向の軽やかなサウンドが特徴だ。ソフトロックやブギーなどに影響を受け、シンセサウンドを取り入れた楽曲も多く制作されている。AFP(2月22日)はシティポップの各種アルバムについて、「この国(日本)の奇跡的な経済成長の際に流行していた魅力的なサウンドトラック」だと語る。
 この古き良きジャンルが、いまになって海外で人気となっている。英ガーディアン(2021年12月10日)は、ジャンルに詳しいアーティストが厳選したコンピレーション・アルバムがここ数年、欧米で続々と発売されるようになったと紹介している。2019年以降、米シアトルのインディーズ・レーベルなど各社がこのブームに乗っているほか、2021年12月には日本コロムビアがシティポップ18曲を収録した『TOKYO GLOW』を発売した。
 
◆代表格は竹内まりや ダンスにもチルにも
 海外でとくに人気があるのは竹内まりやによる84年の『プラスティック・ラヴ』などで、YouTubeでは数千万回再生されている。80年代のヒット曲がいまなお海外で受け入れられている秘密は、アップテンポのなかにも感じられる安らぎにあるようだ。インドネシア出身で東京の広告制作企業に勤める27歳女性はAFPに対し、「踊るときもリラックスの時間にも聴いています」と語る。シティポップは「まるでディスコのよう」だという彼女は、「ノスタルジックな音楽だけれどモダンでもある」点が気に入っているという。
 また、洋楽を参考にしつつも日本なりのアレンジを加えたことも海外の音楽ファンにフレッシュな印象をもたらしているようだ。ガーディアン紙は、やまがたすみこのバラードがミニー・リパートンの系譜を汲んでいるとしながらも、トップラインのシンセが独自性を奏でていると評価する。
 
◆ディグと動画のおすすめで拡散
 人気再燃の背景として、米ヴァージ誌は2つの理由を挙げている。1点目は、日本国内のディガーたちによる再評価だ。いまから数十年ほど前、70年代から80年代のシティポップを発掘するムーブメントが高まった。その波がようやくアメリカなど海外にも伝わったという。2点目は、配信プラットフォームの気まぐれなアルゴリズムだ。YouTubeやSNSなどのアルゴリズムは、音楽カルチャーのバックグラウンドまでを理解できない。そのため、たとえば2010年代のローファイを聴いていたリスナーたちに、竹内まりやを突然おすすめすることがある。こうした偶然からシティポップに興味を抱くパターンが出ているようだ。

 カナダでは、シンガーソングライター兼プロデューサーのザ・ウィークエンドもシティポップの波に乗ったようだ。AFPは、1月7日リリースのニューアルバム『Dawn FM』のなかで、亜蘭知子による1983年の『Midnight Pretenders』がサンプリングされていると報じている。このように日本での流行の「数十年後になって人気が爆発」していると記事は述べ、ノスタルジックかつ新鮮味のあるシティポップのブームを取り上げている。80年代の陽気なシティポップは、厳しい現代に生きる人々の癒しとなっているのかもしれない。



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