心が折れる──能登半島豪雨
記録的な大雨となった石川県の能登地方では24日、生存率が急激に下がるとされる発生から72時間が経過した。輪島市や珠洲市内では安否不明者などの捜索活動が続ている。
■2階が1階の高さ…コンクリートも破壊
記録的な大雨が発生した能登半島。24日午前、災害の発生から生存率が急激に下がるとされる72時間が経過するなか、安否不明者の捜索が続いていた。
輪島市では、行方不明となっている中学3年生の喜三翼音(きそはのん)さんのものとみられる靴が、自宅からおよそ1キロ離れた海岸で見つかった。
翼音さんの父親
喜三鷹也さん
「靴は玄関にあったものなので、それでも本人のものなので、ちょっときれいに洗って大事に持っておこうと。でもまだ諦めてないですけど。物がみつかるのもそうなんですけど、本人見つからないことには、僕もまだまだ最後まで、あしたも、あさっても捜して頑張ろうと思います」
安否不明者の捜索は珠洲市でも行われている。
一時孤立状態となっていた珠洲市大谷地区を上空から撮影した映像では、いまだ海が茶色く濁り、多くの土砂が流れてきたことが分かる。
土砂崩れによって緑豊かだった山肌は大きく削られ、住宅をのみ込みこんだ。
ほとんどの建物は1階部分が土砂で埋まり、なかには屋根しか見えていない建物や、傾いてしまっている建物もある。2階に設置された店の看板も、1階と錯覚する高さに。
周囲は一面土砂に覆われ、がれきやなぎ倒された木が散乱。土砂崩れで山から流れてきた木の残骸は町の至る所にある。
木が衝突した衝撃だろうか、崩れそうになっている住宅もある。土砂崩れが起きる前からこの場所で作業をしていたのか、木の残骸の奥には土砂に埋もれる重機もある。川の側面を覆っていたコンクリートも破壊され、その衝撃の大きさが伺える。
1階部分が完全に土砂に埋まった住宅の2階の窓から、救助隊員が中へ入っていく様子も見られた。懸命な捜索活動が行われていた。
珠洲市大谷では、79歳の女性の安否が分かっていないが、24日に女性1人が見つかり死亡を確認。警察が身元の確認を進めている。
■老舗旅館、震災からの営業再開も…
豪雨から3日が経った輪島市内。現在も、泥を撤去するなど復旧作業が続いている。
大規模な浸水被害が出た輪島市の中心部では、住民らが復旧に向け片付け作業などに追われていた。
地元住民
「当日も一回泥を流したんですけど、もう一回きれいにしとこうかなと」
「(Q.ここはどこまで水が?)35センチ。測ったら35センチでした。あそこ、釘が打ってるあの辺まで。測ったら35センチで。床上までいかなかったので、良かったです」
「氾濫したって聞いたときは、もうダメだと思いました」
震災の爪痕がまだ残るなかでの豪雨災害。輪島市内では、大きな影響を受けた人もいる。
輪島温泉 八汐
谷口浩之常務
「(震災からの)再建計画でこれからどうしようって、ちょっと前向きになれたところで、土砂崩れしたロビーの前とか、露天風呂の前とか見ると、自然とショックは大きくなります」
輪島市で温泉旅館を運営する谷口さん。海岸線に建つ「輪島温泉 八汐」は、創業およそ70年。部屋から見える美しいオーシャンビューと温泉が人気で、地域を代表する老舗旅館として親しまれてきた。
谷口常務
「(Q.かなり崩れてますね)そうですね」
大雨によって土砂崩れが起き、旅館の地盤が崩れてしまった。
谷口常務
「輪島温泉、透明な温泉なんですけど、見たらなんかちょっと濁り湯みたいになっててびっくりしたんですけど」
さらに、自慢の温泉にも雨水が流れ込み茶色く濁っていた。
谷口常務
「(大雨の時は)とりあえず、自宅の方にいたんですけども、豪雨がもう30分もかからないうちにみるみる道が冠水しちゃって。もうこれは二階に垂直避難するしか方法ないなっていうことで」
旅館がどういう状況になっているのか分からなかったという。その後、近くの神社の様子を見に来た人から連絡をもらい…。
谷口常務
「旅館を見てきたよって言って、ちょっとラインもらって崩れてるよって言って。それで、ハァーってちょっと」
土砂崩れによる被害。谷口さんがショックを受ける理由は、それだけではない。
谷口常務
「(震災で)建物損傷もありましたから公費解体を申し込んで、今申請して解体待ちというような感じなんですけど」
震災によって建物に被害が出た影響で、旅館は元日から休業を余儀なくされていたが、公費による建物解体の申請が通ったため、一度更地にしてから再建を予定していたという。
老舗旅館の営業再開へ、前向きに話が進んでいた矢先、大雨による土砂崩れの被害。谷口さんは、今後の不安が頭をよぎるという。
谷口常務
「震災で傷んだ建物で、その時でショックは十分受けた後。この土地が緩んでいるとかね。安全・安心の旅館業っていう商売ですから。ここで再建できる土地なのかどうか、ちょっと心配になりますし(再建までに)5年かかるか、10年かかるかそこが先は見えない」
■巨大な岩が落下、道路も走行不能に
一時、孤立状態にあった輪島市町野町でも、土砂崩れで大きな被害を受けた。
海沿いの道路、土砂崩れが起きて寸断されている。復旧作業が行われているが、岩肌がむき出しになって、下には大きな岩がごろごろと転がっている。
町野町の土砂崩れ現場を上空から捉えた映像では、土砂崩れによって巨大な岩の塊が落ちてきたことが分かる。岩が直撃したのだろうか、土砂崩れが起きた真下の住宅は、一階部分が破壊されていて、奥に見える住宅は左側部分が完全になくなってしまっている。
屋根が大きく傾き、一階部分は倒壊。大きな衝撃が加わったことが分かる。落ちてきた岩は周りの建物と比較しても、この大きさ。カメラが近づくと、岩の巨大さがはっきりと分かる。住宅の周りには大小様々な岩がいくつも積み重なり、一階部分を押し倒している。無数に転がる岩の間には倒れたパーキングの標識もあった。
一面、岩で覆われた奥にはトンネルが見える。ここまでつながっていた道路も、落ちて来た岩によって走行不能に。
これまで3人が亡くなった町野町では、24日に新たに31歳の女性が安否不明になっていることが分かった。
■老人ホーム「18名の部屋に40名」
輪島市の特別養護老人ホームで撮影された映像では、濁流が一気に押し寄せ、施設の中をすごい勢いで流れている。
もんぜん楓の家
山岸丈哲管理者補佐
「怖いは怖いんですけども。もう怖いという思いもまひする」
当時の緊迫した状況を語るのは、施設で利用者の避難を誘導した山岸さん。
山岸管理者補佐
「ここら辺がもう“川”でした。この建物の右側からと左側からと、両方から水が流れてきました」
山岸さんによると、施設が浸水するまで、あっという間だったという。
山岸管理者補佐
「雨雲の動き、予報で出たのでそこを見ながら。水が一気に増えてくるというのを分かっていましたので、(施設に)戻ってきて5分くらいでここ一面(水が)流れておりました」
この時、施設内にいた利用者は38人。消防が救助に来るまで、安全な2階以上の場所に利用者を避難させる必要があった。
山岸管理者補佐
「落ちついて移動しましょうと。8名を上の建物に避難した段階で(浸水の影響で)もう車は出せません。消防署の職員さんが来るまでは、ここで待機」
山岸さんたちの迅速な対応もあって、利用者は全員無事だった。
なぜ今回、短時間で浸水が起こってしまったのか。施設の近くにある川の上流を見に行った。
山岸管理者補佐
「(1月の)地震で土手が崩れて、7月の時はあそこから水があふれて。施設の裏まで押し寄せました」
7月に降った大雨の時に施設の近くで川が越水したことから、応急処置として行政が土嚢(どのう)を設置。しかし、土嚢が設置されていた場所より上流で折れた木や石が堆積。川の流れを変えてしまったことで、より短時間で洪水となったとみられる。
山岸管理者補佐
「せき止められてるんです」
齋藤リポーター
「本来だったら、ここを滝のように流れるんじゃなくて、山沿いに流れてこなきゃいけなかったってことなんですね」
今、最も必要としていることは。
山岸管理者補佐
「まずは、建物の復旧です。本来であれば、18名しかお部屋がないところに今40名いますので。我々事業者だけの力ではどうにもならないことは十分承知していますし、できることがあれば、ご支援頂きたいなという思いでいっぱいです」