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子どもたちはよく働き、よく遊んだ

第十四章 田舎独楽の話   帆足孝治

男の子の遊びの王様


  コマは漢字で書くと「独楽」で、いかにも独りで楽しめる娯楽という感じが込められているが、私か子供の頃過ごした大分県の山間部ではみんなで楽しむための、男の子が最も好んだゲームだった。
 
 戦後、まだ日本中が貧乏だったころは、田舎では子供たちが良く家の手伝いをして働いた。朝は鶏飼い(鶏に餌をやること)に始まり、学校から帰ると薪拾い、赤子負い(赤ん坊の面倒を見ること)、水汲み、風呂炊き、はては駄の世話(農作業を終えた牛馬に餌をやったり、川に連れて行って水を飲ませたり洗ってやったりすること)などなど、実に良く働かされた。子供といえども農家では小学校三、四年にもなれば立派な労働の担い手として当てにされていたので、特に農繁期には、日頃の遊び仲間が遊んでいるのが見えても、次から次へと仕事を言いつけられてなかなか遊びに抜け出していくことができなかった。
 
 それでも遊びたい盛りの子供達は、逞しくも上手に暇を見つけては家から抜け出して実に良く遊んだ。春は苺摘み、竹馬乗り、缶蹴り、ゴム銃遊び、野球など、夏には水浴び、魚取り、釣り、秋は栗拾いやアケビ採り、冬にはラムネ(ビー玉)遊び、パッチン(打ち起こし、メンコのこと)、鉄輪回し、凧上げ、ゴマ(独楽)回し、探検ごっこ、野兎や鳥を狙った罠掛け、ソリ遊びなどと、子供連は皆遊びの達人だった。その中でも、田舎の男の子たちの最大の遊びは、幼児から中学生まで誰でも参加できるコマ回しだった。
 
 この辺りでは、昔からコマのことをゴマと濁って発音する。妖怪の河童や雨具の合羽のことを、いずれもカッパとはいわず「ガッパ」と発音していたのと同じで、最初の語を濁らせるのはこの地方独特のものである。したがってコマ回しは、ここでは「ゴマ回し」とよばれた。
 
 コマなどというと、何やら暖かい部屋の中やテーブルの上で女の子や幼児が遊ぶ遊戯か、あるいは曲芸師が回しながら日本刀の刃の上に乗せて見せたりするあの上品なコマのようなものを想像してしまうが、ここでいうコマ回しは、ただコマを回して楽しむだけの遊びではない。いかに人よりも上手に回すかという競争であり、いかにして人のコマより勢いよく、息長く回して勝つか、という競技である。そして最後は回っている相手のコマを、いかにして自分のコマより早くダメにしてしまうか、その腕と技を競うのである。
 
 したがってコマはコマでも、ここでいうコマはこの地方独特のもので、関東の「ベーゴマ」のような小さなコマと違って形も大きさもまちまちで、作る方も遊ぶ方も高度な技術が求められる非常に奥の深い遊びだった。


 
 

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