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中学生たちの英会話は豊かな日本英語の誕生を告げている

      
《草の葉メソッド》によるトレーニングで、英語を学習してきた中学三年生の鏑木七海さんと山口詩織さんは下記のレッスン「いただきます──文化の発信」に取り組みました。果たして彼女たちはどのような英語で会話したのでしょうか。
 対話レッスンは、まず塾生が日本語で書いたテキストを翻訳ソフトをつかって英文にします。そしてその英文を完璧にそらんじて対話レッスンに臨みます。対話レッスンは互いにその英文を発表して、それからフリー・トーキングになります。
 そのフリー・トーキングの採録ですが、マーク・トゥエインは黒人たちの会話を採録する文体をつくりました、しかし筆者には彼女たちの会話をとらえる文体を創造する力がありませんから、ここは英語という文字に強引に引き寄せて記すことになります。さらに繰り返しや意味不明の発語はそぎ落とし、しばしば日本語がでてきますが、その部分は日本語表記にします。

                         
         いただきます──文化の発信
 
 私の住む町、品川とアメリカのポートランドは姉妹都市で、毎年交互に中高生の交換研修ツァーが行われている。私はそのツアーに参加することになった。私がホームスティしたのはピーターセン家だった。ピーターセン家は、私と同じ年齢のアンと、二歳下の弟ジョン、そして彼らの両親の四人家族だった。 食事のとき私はいつも胸の前に掌をあわせて、「いただきます」というのがとても不思議がられて、それはどういう意味なのだときかれた。私にもその言葉の本当の意味がわからなかったけれど、多分それはごはんが食べられることへの感謝の気持ちを伝える言葉ではないかと言った。「いただきます」という言葉は、ピーターセン家の人々の共感することとなり、食事のときは五人そろって、「いただきます」と言って食べるようになった! 私は日本語と日本の文化をポートランドに伝えたことになる。

 A You fast. ──Okay, I fast. I live in Shinagawa. Shinagawa and Portland are sister city. Japan junior high school students and high school students go to American in this year, next year American junior high school students and high school students to come to Japan. I took part to the tour and I did homestay at Petersen's home. Petersen family are four person, four persons. You know, father, mother, daughter and son. Daughter’s name is Ann, Anne and I are the same age. Ann's brother John is two years younger. When we have meal, I put palm in front of the chest, and said いただきます. They wonder what that’s word. They asked me what does it’s mean いただきます.  also don't understand what that really means. But I thought words of thanks for giving us the meal maybe. I told them so. They moved felt in those words. So when we began eating, everyone said いただきます. I develop, I developed Japanese and Japanese culture to America. Thank you.
B Woohoo, Great, you very good. 
A Thank you. And you.
B    Okay, you know, my town Shinagawa and America's Portland are sister cities, and exchange student ours are conducted alternately for middle and high school students every year. I took part in the tour. It was Petersen's family that I stayed at home. There were four people at Petersen. Anne, John, and father and mother. Ann is the same age as mine. John is two years younger than Ann. When I was eating, I always put my palm in front of my chest and I said いただきます. They were wondering that word いただきます. They said to me that what it meant. I did not understand the true meaning of the word, but maybe it was a word to express gratitude for being able to eat rice. The word いただきます is to sympathize with the people of the Petersen family, and when we were having a meal, we said いただきます with all got together. I will have told Japanese and Japanese culture to Portland.
A Good. Fine. I understand. Ok, you know, I have, I had homestay in summer vacation last year, too.
B Oh, really. Where go?
A Seattle.
B Seattle? In America?
A Yeah, in United States. And, my homestay family very very interesting about Japan, and they ask me a lot of question about Japan, Japanese culture.
B Japanese food, Japanese fashion, Japanese history. Right?
A Yeah, yeah. Tatami, Futon, Hachiko.
B Hachiko? What’s Hachiko?
A Shibuya station, ハチ公, you know, front of the station.
B Oh, ハチ公. Dog, right?
A You know, American’s movie about ハチ公. They know about Hachiko’s story very well.
B Yeah, yeah.
A So, they ask me a lot of question about Japan. But I can’t explain about that’s question, because my English is very poor.
B Me too, I want to speak about Japan, but I can’t explain.
A Yeah, I want to say, I want to answer a lot of question. I can to answer that’s question in Japanese. But I can’t to say in English, so I say I don’t know. I don’t know, I don’t know only. I hate such things, I always say I don’t know, and then our conversation is stop at that point.
B Yes, that’s hit period, and become, ah, ah, しらってなるっていうか、What’s しらってなるin English?
A しらってなる? You know, しらける? Right ? Become white?
B White atmosphere? Or white air? Or white air in atmosphere?
A That’s good. OK, OK, white air, became white air in atmosphere. When I said I don’t know, and then become white air, and our conversation is the end.
B That’s right. All of us become white are at that time.
A So I hate such thing, and I decide not to say I don’t know. And then I speak out one word, two words, three words, I can possible, instead of I don’t know.
B Wow, you are great.
A Just one word, just two word, but they can understand what I want I say.
B Yea, yes, they can follow me. You want what you say? Do you want what you say?
A That’s right. And I spread Japanese culture in the United States. Like the girl in the text.
B   When they have soup, they sip soup without making a sound elegantly calmly. It is their way of eating and is the manner of the meal and is culture.
A So, I eat, I slurp ramen with make sound, ズルズル、ズルズル sound, at that time, all family became, all families eye, 目が点になる, what is this?
B Eye become the point, or Eye become the dot?
A The dot is better, Ok, all member, family member’s eyes became the dot. They looked me with dot of eye, and they seem I came from barbarian country. So I think, I thought, at first, I thought they study of how to eat ramen was necessary. And I went to the rental store, video rental store. And I borrowed “たんぽぽ” and “ラーメンガール” of the English version. And we watched those video, videos.
B Yeah, it’s great text.
A They watched two videos, and then they knew how to eat ramen. Then they eat ramen, making sound making noise sound ズルズル sound, they can slurp ramen.
B So did your homestay family become able to take slurp?
A Yes.
B Wow, it was exciting.
A Yes, they broke American culture and all family make, made ズルズルsound and to slurp and eat ramen.
B Wonderful. You were great job in America.

  

 鏑木七海さんと山口詩織さんの対話の日本語への翻訳は、これまた難作業です。彼女たちが放つ英語は、過去形も、現在形も、未来形もごちゃまぜだし、単数形も複数形もごったまぜで、こんな対話を正確に訳すとずいぶん奇妙な日本語になるでしょう。あるいは「I don’t know」を頻発すると、その場の雰囲気が「しらっ」となるといった表現や、ラーメンをズルズルとすすったらピーターセン一家の全員の目が点になった、その「点になった」といった表現を彼女たちはデタラメ英語ででっちあげていく場面など、日本語にしたらさっぱり面白くありません。そんなわけで、ここでは彼女たちがデタラメ英語を駆使して、どんな豊かな会話を交わしたかを強引に要約してみることにします。しかも正確な要約ではなく、彼女たちが何を表現しているのか、あるいは何を表現しようとしたかったのかを読み込んでの意訳の要約です。
 
A あたしも二年生の夏休みに、ホームスティしたのよ。
B あんたは、どこにいったの。
A アメリカのシアトル。あたしがホームスティした家の人たちも日本のことにすごく関心もってて、いろいろ聞かれるんだけど、それがうまく説明できないんだよね。
B 話したいんだけどそれが言えなくて、I don’t knowって言っちゃうんだよね。
A そうそう。I don’t knowばっかりになって、それがすごくいやになってさ。だってさ、I don’t know っていったら、そこで会話が終っちゃうんだよ。 
B ピリオドが打たれちゃって、しらっとした空気になっちゃうんだよね。
A それがいやで、ぜったいにI don’t know は言わないことにしようって思って、それからはとにかく単語だけでもいいから、話すようにしたのよ。
B それって意外に通じるんだよね。
A ちゃんとフォローしてくれるからね。
B あなたの言ったことはこういうこととか。あなたの言いたいことはこういうことかね。
A あたしもね、このテキストの子じゃないけど、日本の文化を広めてきたよ。
B どんなこと?
A 豚骨ラーメンに、醤油ラーメンに、塩ラーメンに、味噌ラーメン。
B うへっ、すげえ!
A 十回ぐらい作って上げたかな。あたしがホームスティした家族、完全にラーメンにはまっちゃってさ。
B そんなに作ってあげたら、ラーメンにはまっちゃうよ。
A ラーメンを作るのは簡単なのよ。簡単じゃないのは食べ方なの。まずさ、箸の持ち方からはじまるのよ、アメリカ人って、箸がぜんぜん使えないじゃない。
B ラーメンはやっぱ箸だよね。フォークじゃないよね。
A そうだよ、パスタ食べるんじゃないんだから。だけどさ、アメリカ人にとって、箸を使うのってものすごくむずかしいことなんだよ。
B あたしも教えてあげたけど、全然だめだった。
A ショックだったのは、アメリカ人ってラーメンすすれないのよ。あんた、知ってた? あたしはそれ知らなかったからさ、ちょっとしたカルチャーショックだった。
B あの人たちは、ラーメンとか、おそばとか、うどんとかはすすれない民族なんだよ。
A 何度やってもだめなのよね、喉につまってむせちゃったりしてさ。そのうちジョンっていう男の子がハサミ持ち出してきてね、麺をさ、そのハサミで切って食べたりしてさ。
B 信じられない。
A それで、あたし気づいたのは、やっぱ根底のあるのは、文化のちがいなんだってことに。アメリカ人の食事の食べ方って、ぜったいに音をたてちゃだめでしょう。小さい時からそんな風に教育されているわけだし。
B そうそう、スープなんか飲むときだって、静かに、お上品に、音を立てないですするんだよね。それがあの人たちの食べ方であり、守るべき食事のマナーであり、文化なんだよ。
A だから最初さ、あたしがずるずるって音たててラーメン食べたら、家族全員、ものすごい顔をして私をみるわけよ。
B みんな目が点になるよね。どこからきた野蛮人なんだって目だよね。
A それでさ、まずラーメンの食べ方のお勉強が必要だと思ってさ、レンタルショップにいって、英語バージョンの「たんほぽ」と「ラーメンガール」を借りてきて、そのビデオをみんなで見ることにしたのよ。
B わあっ、それって最高のテキストだよ。
A そのビデオ見て、彼らにもわかったのよ。ラーメンを食べるときは、ずるずるって派手な音をけたてて、すするもんだってことが。
B それでみんなすすれるようになったの?
A そうなのよ、家族全員が、アメリカ文化をぶち破って、派手な音をけたててずるずるってラーメンをすするようになったのよ。

 英文法パニック症候群から解き放たれた鏑木七海さんの英語は、水を得た魚、鳥籠から放たれた小鳥となったかのようです。ラケットを握った七海さんは、だれよりも派手にDJイングリッシュ──デタラメ英語を打ち込んでいきます。そして七海さんが放ってくる英語に、山口詩織さんがまた完璧なデタラメ英語で打ち返します。彼女たちの放つ英語には未来があり、やがて出現してくる日本英語を予感させます。彼女たちの対話のラリーが途切れることなく続き、しかもその会話が多彩なきらめきを放つのは、華麗なるデタラメ英語を打ち込んでは、対話者からさらに華麗なデタラメ英語を引き出していくからでしょう。



 


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