佐村河内守氏はペテン師だったのか
「交響曲第一番HIROSHIMA」復活のドラマ 4
私には夢があります。もし何らかの奇跡が起こり、聴力が甦り、発作も消え失せたときには、迷わず筆を折り、作曲以外の道を選ぶことでしょう。裏を返すならこの淡い夢は、愛する音楽と引きかえにできるほど、いまの精神的・肉体的苦痛が耐えがたいことを表しているのかもしれません。
しかしそれよりも、聴力が甦った瞬間に真実の音が聴けなくなり、本物の音楽が書けなくなった自分自身を許せないにちがいありません。
夢は夢として‥‥‥。音を喪くしたからこそ音楽しかなくなってしまった私には、闇にとどまりながら真実の音を追い求めていくほかない。そう覚悟しているのです。
人は光の中にいると、小さな光は見つけにくいものです。だから次から次により強い光を求めてしまいます。
人は闇に堕ちて初めて、小さな光に気づくのでしょう。
私の生は闇に満ちています。
闇は、痛みと悲しみと狂気にあふれた、生きにくい「深淵の地」です。しかし、闇はその圧倒的な暗さゆえに、小さな光にすら敏感になれる唯一の地でもあるのです。私はその小さな光を見つけられたとき、深い感動と感謝をおぽえずにはいられません。
私は抜けだせない闇の底で、一つの真実の音を得るために九十九を犠牲にしながら、いまだ地を這いつづける「ぶざまな偏執狂者」なのでしょう。
それでもなお、私は甘んじてこの闇を受け入れようと思います。私にとって真実の音である「闇の音」は、この閤の底でなくては得られないのですから……。
真実は闇の中にこそ隠されている──宝物は決して光の中でなく、闇の中にこそ巧みに隠されているように。
交響曲第一番HIROSHIMAの復活のドラマ
『FAKE』 森達也
残酷なるかな森達也 神山典士
新垣隆氏はペテン師を創造したのか
佐村河内守氏はペテン師だったのか
華麗な舞った高橋大輔
ヴァイオリンのためのソナチネ
魂の旋律 古賀淳也
交響曲第一番HIROSHIMA 佐村河内守
天才とペテン師 神山典士
巨大な作品 野本由紀夫
21世紀の日本に可能な交響曲の姿 長木誠司
現代音楽への警鐘 池辺晋一郎
汚され、地に堕ちた「交響曲第一番HIROSHIMA」の復活を追跡する戯曲「ヴァィオリンのためのソナチネ」が《草の葉ライブラリー》より近刊。