大いなる挑戦
人物画にはトローニーという手法がある。モデルを写し撮ったようにキャンバスに描くのではなく、フィクションという技法で描きあげていく人物画である。私の描くポートレイトがいつもトローニーになっていくのは、それなりの技量を持っているからではなく、そのモデルを描き込もうとすればするほど似ても似つかないポートレイトになっていく。そんな絵を私は気取ってトローニーなどといっているのだが、しかしそれが私の絵であり、私の思想であり、私のマチュエールだった。私はその人物の内部を描きたいという強い意思があるのだ。
例えば、津波で壊滅した小さな漁村の埠頭で、一人の中年の漁師がインタヴューされている映像があった。なんでもその日、大きな津波がくるという警報で、船を沖にむかって走らせた。かつて見たこともない巨大な津波の襲撃をやり過ごして、港に戻ってくると村のすべてなくなっていた。彼の家族も津波に飲み込まれてしまった。漁師はその悲劇をさびしい笑顔をつくってとつとつと話している。私はその漁師のさびしい笑顔と、その笑顔の底にある彼に襲いかかった悲劇を描き上げようと苦闘するのだ。
絵画はその絵画がすべてであって、その絵画につけられるタイトルは、いわば商店の看板あるいは家屋の表札といったものだった。《A氏の肖像》とか《М嬢》とか《旅愁》とか《冬の日》とか《旅にでる若者》とかいったタイトルで、ほとんどが十字を越えることはない。この定石を打ち破って長大なタイトルをつけることにしたのだ。例えば、この漁師のポートレイトには次のようなタイトルをつけた。
《その日、海の底が見えるばかりに潮が引いていった。漁師は船を守るため、機動をけたてて沖へ沖へと走らせた。津波がやってきた。漁師になって二十七年、それはかつて見たこともない巨大な津波だった。海が丘陵のようにうねり、船はくるくると木の葉のように舞う。しかし彼の船は転覆しなかった。第二波、第三波と襲いかかる津波の襲撃を乗り切って漁港に帰ってきた。村がなくなっていた。すべての家屋がきれいになくなっていた。妻と二人の子供と母親の五人家族だった。その四人も海に飲み込まれてしまった。彼は漁師仲間と明るく談笑しているが、その笑顔のなかにぽっかりとあいた空洞は隠しようもない。一人さびしく晩酌しているとき、涙がとどめなく流れ落ちるのだ》
中延商店街 スキップロードに芸術が上陸してきた
われらの人生の師、96歳になった周藤佐夫郎さんの生命力あふれる絵画は、私たちに勇気と生命エネルギーを注ぎこんでくれます。忙しい毎日、しかしこの日、スキップロードの「ふれあい広場」を訪れて、周藤佐夫郎さんと、これまた生命力あふれる高尾五郎さんの絵画に遭遇してください。「草の葉クラブ」は、新しい地平を切り拓くためにこの芸術展を、これから毎月第四土曜日に開催します。芸術とは私たちの人生を豊かにする魂のパンです。
7月25日 土曜日
10時から5時
中延商店街・スキップロード「ふれあい広場」
交通アクセス
JR大井町駅で東急大井町線に乗り換え中延駅下車
JR五反田駅で東急池上線に乗り換え荏原中延駅下車
中延商店街スキップロードはいずれの駅からも徒歩二分。
「ふれあい広場」はスキップロードの中ほどにあります。
「note」からの来訪者には、52ページの冊子「草の葉 夏季特別号」を無料で差し上げます。われらのムーブメントに共鳴し共感しともに参戦したいと熱望する方、新しい地平を切り拓こうと苦闘している方、戦いに敗れていま失意のどん底にある方、「note 」に言葉を書き込むことにむなしさを感じている方、夢に向かって一歩が踏み出せない方、われらの小さな祭典に足を運んでください。わずか十畳ほどの小さな空間です。そこに展示される絵画は、晩年になって絵画に取り組んだ独学独習のまったくのドシロウトの作品です。しかし二人の絵画はあなたの想像力と創造力を触発させるでしょう。こんな下手な絵なら俺たちにだって描けると。
当日は「草の葉がクラブ」が生み出した作品の一部を展示販売します。そして今、「誰でも本が作れる。誰でも本を発行できる。誰でも出版社が作れる」というスローガンのもとに展開している一冊「ゲルニカの旗 南の海の島」も展示します。小さな出版革命を起こす手作りの本とはどのようなものなのか。手にとってご覧ください。
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