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ぽっ、とかすかな音をたてて蕾がひらく。 その色を唇でついばみ舌で転がしている俺に、彼は拗ねたように問うた。 「それで腹の足しになるものか」 「たべてみる?」 結構だ、と言いかけたその口に舌を滑らせ、そのまま押し込む。 彼は目を白黒させながら飲み込んだ。 「……少し、にがいな」 「そう?」 「だが、不思議とあまい」 彼はここを死に場所と定め、生気を喰らう俺をそばに置いた。 奇妙な同居生活は穏やかな死に向かっていくはずだった。 それがいつしか、俺は花の色を喰らうこと
甘い香りが、漂っている。 その胸の、肋《あばら》の檻に抱かれた、赤子の頭ほどの蕾。 ひとたび咲けば、この世のあらゆる厄災を祓い、奇跡を招くという伝説の花。 それが此度の贄に弟の身体を求めたのだ。 弟。 私が欲してやまず、しかし決して手に入らないはずだった男。 胸元がめり、と裂け、香りがいっそう強くなる。その面差しにおちる陰は、この期に及んでいっそう好ましい。 ――その命尽きるならば、我が生涯をかけて世界を呪おう。 ――永らえたならば、我が生涯をかけて貴方を愛