ふたくちめ
ぽっ、とかすかな音をたてて蕾がひらく。
その色を唇でついばみ舌で転がしている俺に、彼は拗ねたように問うた。
「それで腹の足しになるものか」
「たべてみる?」
結構だ、と言いかけたその口に舌を滑らせ、そのまま押し込む。
彼は目を白黒させながら飲み込んだ。
「……少し、にがいな」
「そう?」
「だが、不思議とあまい」
彼はここを死に場所と定め、生気を喰らう俺をそばに置いた。
奇妙な同居生活は穏やかな死に向かっていくはずだった。
それがいつしか、俺は花の色を喰らうことを覚え、草茫々だった庭も今では花を絶やすことがない。
「これはくせになるな」
「そうだろ」
ほら、と差し出した二口目に、彼はそっと顔を寄せた。
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