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父と暮らす ②ヤクルト攻防戦

お風呂から上がると、父が必ず「水分を摂れ」という。テーブルの上にはカルピスウオーター1.5ℓのペットボトル。それは糖分がすごく多いから、私は飲まない。常備しているアイスルイボスティーが良い。

私の後お風呂に入った父が、テーブル上のペットボトルを見ていつも「飲んだか? 減ってないんじゃないか」という。だから私は甘いのは飲まないんだってば。そして夜、そろそろ寝ようかというころ、父が私の目の前にヤクルト1000を配達していく。欲しくないけど、唯一のおもてなしなので「ありがとう」と言って受け取る。

だから買い物に行くと、スーパーのヤクルトコーナーを前にしばし悩む。父が好きなので買っていきたいが、半分は私に回ってくるものだ。「要らない」と言いたいけど、基本他者に無関心な父が「飲め」という風に置いて行くものを、何だかむげに出来なくて。

ヤクルトのことをうっかり忘れたいな、と思いながらスーパーに入る。うっかりなら、仕方ないもんね。でもそんなときに限って、頭から離れない。ほうれん草を手にヤクルト、鶏肉を見ながらヤクルトが浮かぶ。

今日は買わない!と心に決めて、そのまま帰ってきた夜。テレビを見ていた父が、いつものように冷蔵庫に向かった。ヤクルトを探している―。ないと気づいたみたい―。と、目薬を片手に戻ってきた。ヤクルトなんか探してないもんねー、目薬取りに行っただけだもんねー、と言わんばかりに。

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