眼科探偵
左目がゴロゴロして痛いので、眼科に行ったのがひと月前。9時からの診察時間に合わせて行こうものなら、車はまず停められない人気の眼科だ。異物感に加えて、眼球全体にビンと走る痛みが気になっていた。左目を診て何か処置したあと、医師が低い声で言う。
「目の下のできものは、最近できたものですか?」
「いいえ、前からです」
「目の痛みは、今はないでしょ」
できものは全然関係ない話だ。眼球の痛みは確かにとれたが、違和感は残っていた。医師は、画像をこちらに向けた。
「これ、こんな風に逆さまつげがあったので取りました。ドライアイの目薬を出しておきましょう」
下まつげをカットした拡大写真が見えた。異物感は何となく残っているけど、そのうち薄らぐのだろうと、その時は帰宅した。が、ゴロゴロ感は続き、クリスマスイブの夕方、強い痛みに襲われた。目が充血して涙が出る。痛くて開けていられない。すぐ診てもらいたいけれど、土曜の夕方だからなんとか我慢してやり過ごした。
病院は、8時半に開くらしい。今朝、ちょうど開く時間に着いたのに、広い駐車場はすでにほぼ埋まっていた。年末年始の休診が近いから、皆今のうちにと思うのだろう。左目を診たあと、また医師がちょっと変わったことを言う。
「最近、いつ髪を切りました?」
「ひと月くらい前です」
「どこで切っていますか?自分で?」
「いえ、知り合いの美容室です」
「動物は飼っていますか?またはそんな環境にいますか?」
「いいえ」
質問の意図をはかりかねていたら、医師が画像をこちらに向けた。
「まぶたの裏に、切った髪の毛が2、3本付いていました。取りましたけどね」
確かに、まつげではないカットした髪の毛だ。こんなところに張り付くのは、自分で切ったか、もしくは動物の毛かと思い、さっきの質問になったらしい。そういえば前回もこんな流れだったっけ。探偵が、推理の根拠を示すような説明で、ちょっと新鮮だった。