手抜き介護 102 ありがとうございましたって言わないで
今日のヘルパーさんは、父のお気に入りだと母が主張する人だ。帰った後、「お父さんがお金を渡していた」と険しい顔で訴えてきた。帰り際、「ありがとうございました!」という嬉しそうな声が聞こえたので、その時に渡したんだろう、と。
「渡してないよ。私、その場で見てたから」(実際は見ていない)
「じゃ、その前に台所で渡したんだわ。何かコソコソしてたから。だいぶん入れ込んでるのは確かだよ」
この手の話はどうしたら良いものやらと思っていたら、母が「ぶつかってみるか」とつぶやいて、父に向かった。すごいな。
「ヘルパーさんにお金渡したでしょ」
「渡してない。そんなこと1度もしたことない」
「じゃ、キウイは? キウイあげたでしょ、前」
「キウイ? 何?」
耳が遠い同士だから、実際はもっと訊き返し合っての会話だ。キウイは、前に仏壇に上がっていたものがいつの間にか無くなっていたからヘルパーさんにあげたんだろうと言っていた。実際は、楽しみにしていた母に断りなく父が食べちゃったという、世にも下らないオチに違いない。
「じゃ、何でありがとうございましたなんて言うの? おかしいじゃない」
「挨拶だ」
もともと他人の言葉の裏を読みたがり、思い込みも強い人だ。事実無根と言っても、納得するわけがない。いやー、ありがとうございましたって言うのやめてくれって連絡する? 直接の電話番号なんてもちろん知らないから、福祉事務所宛てに? 説明するのも憚られる内容で、頭が痛い。
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