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手抜き介護 116 インターフォンに映る人

実家のインターフォンは、いつも「新着あり」の青い光が点きっ放しになっている。訪れる人の多くは宅配やヘルパーさんなのだけど、父母どちらも訪問者を改めて確認することはないから、気づいたときに私が適当に整理して消す。もちろん、誰か分からない人は念のため残した上で。

でもいつも点いている光が消えている方が、母は気になるらしい。正常に機能していないと思うようなので、「必要ない画像を消している」と説明しながら操作を見せた。

「この人、昨日のヘルパーさんでしょ。分かる?」
「ああ、分かる」
「これなんかは残しておく必要がないから消してるの。この次の人は、町内会でしょ」
「集金に来てたわ」
「これ、誰か分かる?」
「え?」
「見覚えない?」

映っているのは、病院帰りの母だ。

「誰だ。…年寄りだね。キミさんみたい」
「これ、お母さんだよ」
「え? 私? 嘘!」

キミさんとは、母から見たお姑さん。確か103くらいで亡くなった。その人が重なったようだ。自分の知っている自分の顔と、人が見ている自分の顔は違うというもんね。鏡は、身構えて見ているから緊張感のある顔だけど、写真は不意打ちで撮られるから、自分は「写真写りが悪い」と勘違いするのだとか。つまり、日ごろ皆さんにお見せしているのは、写りが悪い方の顔。

「あの年寄り…。私…」とつぶやきながら、ソファの定位置に戻る母。そんなに衝撃だったか。確かに、たまたま映り込んだ自分の後ろ姿にぎょっとすること、あるよね。


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