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父と暮らす ⑰お布施、濡れる
お坊さんが「午前中に」来る日、9時には迎えられるよう部屋を整えた。湯飲みと茶托をセットし、やかんには必要な分だけの水を入れてスタンバイ。前日父から「お布施を載せる四角いやつ知らないか」と訊かれたけど、私が知るわけない。「百均で買ってこようか」と言ったら、「なければ良い」というのでやめにした。
そして待つこと1時間。父もゲームを始めるわけにもいかず、お昼寝も出来ず、落ち着かない。突然「散髪するか」と言いだした。母が入院してから、父の散髪は私がしている。先週、「だいぶん伸びてきたから、髪切ろうか」と言ったのを思い出したらしい。「うん」と言ったら、バリカンの準備を始めた。
「え、今? 今はダメだよ」
「ダメか」
「もう来るかもしれないじゃない」
「そうか」
半分刈ったところでお坊さんが来たら、どうするつもり? 結果、実際に着いたのはそこから30分後だったから時間はあったけど、あれ、切り始めていたらバッティングするパターンだよね。
ホンモノのお経は野太く声量豊かで(当たり前!)、いつも聞いているのとは全然違った。命日や名前などを織り交ぜて詠むし、立ったり座ったりいろんな動作が入っていた。お参りが終わってお茶を入れたとき、お盆に少しこぼしたのだけど、茶托には影響なさそうだったのでそのまま出して、脇にお盆を置いた。
すると父がそのお盆にお布施を載せて、お坊さんに差し出した。あ、濡れた!とも言えず見ていたら、それを持参のケースにしまったお坊さん。大事な書類とか、入っていませんように、南無南無。