手抜き介護 96 コーヒーを飲む
今日は父の受診日で、約束の20分前に実家に着いた。父はゆっくり白湯を飲み、母はソファに沈んでいびきをかいている。新聞を読みながら待っていたら、ふと母のいびきが止まり、「コーヒー、向こうで飲みなさい」と聞こえてきた。
父「何だって?」
母「病院でコーヒー飲みなさい。今日水分摂っていないから」
父「病院がどうしたって?」
母「水分、コーヒー、病院で摂ったらって! まだ迎えに来ないの、遅いね!」
母には、自分が寝ていたという自覚がない。私が「来てるよ」と顔を出したら、「あら」と言って目を閉じ、5秒後にはまたいびきをかいていた。これだけふわふわ夢と現実を行き来していたら、そりゃ幻覚も起きそうだ。
水分補給にコーヒーというのもちょっとだし、父が病院でカフェに入るなんて考えられない。でもまあ、母的には気づかいの言葉なのだろう。
診察の待ち時間は、いつも通りたっぷりと長かった。患者それぞれが持つ診察番号が表示されたら待合室に入るのだけど、番号はロビーでも食堂でも見られる。血液内科の受診待ちをしていた時、父が何も言わずどこかへ行った。
向かった先には自由に測れる血圧計があり、そこにも診察番号のモニターはついているので、自分の番号が出たら戻ってくるだろうと思った。でも30分経っても帰って来ない。トイレにしても長すぎる。そのうち父の番号が表示され、しかたなく探しに行くことに。
結構探し回って見つけたのは、自販機の陰だった。「番号出ているよ」と声を掛けたら、振り向いた手に缶コーヒーがある。え? 母に言われた通り、(1人で缶)コーヒーを飲んでたの? 父に驚くことはもう何もないと思っていたけれど、私を誘う発想もないんだなと、やっぱりちょっと驚いてしまう。