日常と非日常が融合する街:芦屋
海外に行くと日本の良さがわかるというが、東京に行くと故郷の良さが良くわかる。私の故郷は、芦屋という人口およそ10万人弱の市だ。兵庫県の西宮市と神戸市の間に挟まれているため、かなりこぢんまりとした地域に感じられる。
緑豊かな山から、桜の美しい清流「芦屋川」を辿って、穏やかな芦屋浜まで、歩いて1時間程度である。景観条例によって背の高いビルもなければ、パチンコやゲームセンターもない。こんがりとした匂いが漂う焼き菓子店が立ち並び、ホームパーティー用の風船屋や食パンだけを売るベーカリーがある。この穏やかな自然と、特色のある店舗が独特に融合している。独特に融合させているのは、ここに住まう独特の市民である。芦屋市は一般的に高級住宅街として知られているが、元々は別荘地だったことが由縁である。つまり、非日常的な時間を過ごすことが目的である別荘地で、日々の暮らしを営むのが芦屋市民なのである。
芦屋では季節を憩うイベントが多く開催される。自然が多く、豊かな生物にも恵まれている土地故、季節との接点を感じやすいのだろう。新しい家や道路を設計する際に、樹齢の高い桜の木を尊敬するような構図になったという話も聞く。緑や青のない景色がほとんどない街なのだ。芦屋市民は、自然をできるだけ自然として生かすための、手の加え方を心得ている。
芦屋では超有名店がうまくいかない。芸能人の店も割とすぐつぶれる。代わりに、上記のような特定の顧客をしっかり掴むユニークな店舗が長続きする。皮のパーツを組み合わせてオリジナルのキーホルダーが作れる店や、髪の毛を結わえるシュシュの専門店など、どれも出店時には長続きするとは思えないほどエッジの利いた店ばかりだ。芦屋市民は、人の手で作り出される非日常的なパーツで日常を構成したがるのかもしれない。
私は5年半前に東京に来てからというもの、無意識的に穏やかな自然と特色のある店舗が独特に融合している街を探しているが、未だ見つけられずにいる。まず、山と川と海が1時間で味わえる街が少ない。その上でユニークな並びのある街が少ない。少ないのか、もしくは芦屋のような街は他にないというバイアスを自分自身にかけてしまっているのか。
日常と非日常が融合する街:芦屋は確かにあそこにしかない。