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箔の“立体感やきらめき”が、想像を超える驚きをもたらす ── KAKAN DESIGN 齊藤 桃子さんインタビュー
箔を使いパッケージを創作するクリエイターのまなざしから、箔の魅力や新たな表現、そしてデザインを生み出す源泉に迫る今回の企画。初回に登場してくださるのは、KAKAN DESIGN デザイナーの齊藤 桃子さんです。ものづくりの原体験や、2回の起業を経てデザイナーとしての軸を見つけるまでの道のりをお話しいただきました。
“植物とふれ合うよろこび”
デザインの現在地と、ものづくりの原点
ー 普段、どのようなデザイン分野で活動をしていますか?
2015年に独立して、KAKAN DESIGNの屋号で活動しています。グラフィックデザイン、パッケージデザイン、植物のイラストの3つの仕事がメインです。
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子どものころから、花が好きだったんです。KAKAN DESIGNの由来は「花の冠」。ものづくりの原点は、花を摘んで、いろいろなものを作ったことですね。つくる時の喜びや、できたものを贈った時に相手がよろこんでくれた思い出が、ものを作るときの根本にあります。
ー いつ頃からデザイナーという職業を意識するようになりましたか?
高校生の頃は運動が好きで、ジムのインストラクターになろうかなと思ったこともありました。でも、運動と同じくらい、絵を描くことやものづくりも好きだったんです。「仕事にするならどっちだろう?」と考えた時、絵を描いて制作物を残せたり、人の役に立つものを作りたいという思いが自分の中にあることに気づき始めました。
当時は、あまり勉強が好きではなくて、家庭教師の先生と勉強していても眠くなってしまうんです。そこに先生が美術の本を持ってきてくださって。絵画の歴史を教えてもらう時間だけはパッと目が覚めるんですよね。それを機に、自分の描いた絵を先生に見せるようになりました。
先生から「美術が向いているんじゃないか」、「グラフィックデザインというジャンルがあるよ」と聞いて、今まで知らなかったデザインの世界を知りました。それがグラフィックデザイナーの道へ入るきっかけですね。
ゼロから作り出すパッケージに、
想像の域を超える、新しい発見が生まれる
ー 齊藤さんのこだわりが色濃くでた、箔を使った制作物を教えていただけますか?
そうですね。例えばこのスイーツのパッケージなんですが、どこに箔を使っているか分かりますか?
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グレーの箱に白インクを重ねると「ぱきっとした白」が出ず沈んで見え、背面のグレーもやぼったい印象を与えてしまうんです。そこで、白の箔を押しました。触った時の感触がいいですし、さりげなく存在感を与えている感じがいいなと思って。
箔というと、きらきらしたイメージがあると思うのですが、私はマットな白や黒の箔を好んで使っています。少し手を加えることで、「ちゃんとした存在感を示せる」というのが箔の魅力ですね。
ーどんな表現をしたいときに箔を使いますか?
箔が好なので、箔を使うことを提案することも多く、「いつもなんとか使いたい!」と思っています(笑)
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箔を使う理由の一つが、印刷ではできない表現が可能になることです。先ほどのパッケージもそうでしたが、白でアクセントを出したいときには白い箔を使いますね。
紙箱には様々な種類がありますが、私が箔押しをメインに使うのは、薄い紙を巻いてつくる「貼り箱」や紙を組み立ててつくる「組箱」をデザインするときです。特に「貼り箱」は比較的高価なものを入れることが多い箱なので、箔でロゴをワンポイントでいれたり、柄を入れたり。箔は、クライアントのイメージに合わせてセレクトします。ゴールドの箔を使うと「世界観が違うな」と感じると、白い箔を選びますね。
ー 齊藤さんが感じる、箔の魅力はなんですか?
想像を超える驚きをもたらしてくれる、ということですね。
実は、箔というのは、押して見ないと仕上がりの印象がわからないんです。たとえば、黒い箔にも、「つやっとした箔」や「ぬめっとした箔」があって、箔の種類や押し具合、紙の材質などいろいろな条件が重なることで、出来上がるものが変わってきます。
最初はまっさらな状態の紙を、クライアントとともにゼロからパッケージとして作り上げて行きます。無地の紙に、色を構成して、最後に箔をのせます。試作の段階では、疑似箔(インスタントレタリング)で提案しますし、パソコン上で完成のイメージをつかんでいる状態です。
その後、実際に箔押しされたものが出来上がり、ぱっと手に取ったときは、テンションが上がりますね。箔の“立体感やきらめき”など、期待を超えることが起きるんです。
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そしてデザインを学ぶ学生たちとの制作を通して、箔の可能性を感じる出来事がありました。大学で講義を担当しているのですが、クルツさんの協力で、箔を使う機会を作っていただきました。学生たちは、新鮮な視点でどんどん挑戦していくんですよね。
教えている側から見ると使いにくいと思う箔でも、実際に使ってみるとおもしろい表現が生まれる。学生たちも夢中で制作していました。箔には、デザイナーの想像を超えた表現を生みだす力がありますね。
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箔だからこその特別な質感
ー 齊藤さんには「デザインのひきだし」で、箔のサンプルページを制作いただきました。クルツの箔にどんな印象を持ちましたか?
クルツさんからお声がけいただいたときは、「いいんですか!」と思わず声に出してしまうほど、嬉しく感じました。たくさんの種類の箔を押すことができて、勉強になりました。
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そして大学の講義に、クルツの田中さんをゲスト講師としてお迎えしたときも、いろいろな紙と箔を組み合わせてテストすることができました。箔を説明するために、学生に年賀状をプレゼントしたのですが、干支の兎の絵に箔を使ったんです。
クルツの箔の特徴は、ホログラムの美しさや繊細なニュアンスのゴールドにあると思います。紙と箔の組み合わせ調整は難しくて、調整次第で同じゴールドでも印象が全く変わります。クルツの箔は、上品な紙と相性が良くて、ぱきっと綺麗に色が出ます。
箔があるだけで、パッケージを手に取ったときや目にしたときの反応が違ってきます。やはり箔には存在感がありますね。
ー 齊藤さんとご一緒したことで、箔の活用や見せ方の可能性が広がりました!そんな齊藤さんの「推し箔」はなんですか?
顔料箔とホログラムが好きです。それから、「ルマフィン」のファンです!透明箔があることが衝撃的でした。
黄色がお気に入りで、使いやすいかな。「ルマフィン」の箔押しは、透けていて、光沢感もあるところが魅力です。もちろん透明インキや、シルク印刷を使って透ける色をかぶせることもできることもできるんですけど、箔押しでないと表現できない特別な質感がありますね。
クルツのLUMAFIN®は、下地印刷デザインが透けて見える、半透明スタンピングフォイル。見る角度により、メタリックに似た視覚効果も得ることができる。https://www.kurzjapan.com/news/product_info/
“なんでも屋さん”からの飛躍
デザイナーとしての軸を見つけて
ー 最後に、デザイナーとして2回の起業を経験した経緯を聞かせてください。
高校卒業後は、技術をみっちりと学んで即戦力として働きたいと考えて、専門学校に進学しました。そこで出会った先生の影響で、さらに研究科に進学します。産学連携に力を入れている研究科だったので、企業からの案件に学生が携わるカリキュラムに参加することができました。
卒業後も、研究科の先生と卒業生で仕事を受け続けることになり、卒業と同時に独立する流れになったんです。仕事には刺激がたくさんあり、周りにデザイナーの先輩がたくさんいたので、起業していた4年間にいろんなことを教えていただきました。
ですが働きはじめた頃は収入も少なくて、単価も低かったんです。自分の得意分野が分かっていなかったので、「なんでもやります!」と仕事を引き受けていました。どんな仕事もこなすために、1週間職場に泊まり込みをしたり、徹夜が続いたりすることも......。若いとはいえ体を壊すこともあり、このまま続けて行くのは難しいかもしれないと感じるようになりました。
あるとき、「“なんでもできます”は、何もできないと同じやで」と言われたことがあって。「なんでもできる」というのは便利だし需要はあるだろうけど、「どんなデザインができるの?」と聞かれて「なんでもできる」と答えるのは、得意分野がなくて「何もできない」と同じだというメッセージでした。
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自分の得意分野を極めていかないと、“なんでも屋さん”になってしまうことに気づき、「そうか!」と思い立って、一から修行しようと会社に勤めることにしました。デザインをしっかり学び直して、軸を持ちたいと思ったんです。
ー 会社ではどのような経験を?
会社員時代は、グラフィックや内装の会社を4社ほど経験しました。グラフィックデザインや空間デザインの仕事から始まり、エステサロンのボトルデザインを担当したのをきっかけに、パッケージデザインに興味が湧きました。その後、自然な流れで独立しました。関西を拠点に「KAKAN DESIGN」を設立して、現在に至っています。パッケージデザイン協会ともご縁があって、あたたかい会員の方たちとの出会いやメーカーさんとの新しい出会いに恵まれました。みなさん丁寧に接してくださり、たくさんのことを教えていただき、仕事に繋がっています。
ー 様々な経験が今に繋がっているんですね。
実は、高校生のころから働くことに興味を持っていて、学生のころはいろいろなアルバイトを経験しました。印刷会社、デザイン系、スーパーの品出し、ラーメン、百貨店のレストランなど。飽き性で長く続けることが苦手だったのですが、デザインだけは長く続けています。
デザインの仕事に関わると、いろいろな仕事の現場を直接見ることができます。携わる仕事はいつも新鮮で、私にとって新しい場所。毎回さまざまなことを調べながら制作するのが楽しいんですよね。
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幼少期の植物とのふれあいを原点に、さまざまな人と出会いを通して、デザイナーとしての軸を見つけ、活躍の幅を広げる齊藤さん。デザインのアイデアを楽しそうにお話しされる様子がとても魅力的でした。齊藤さん、ありがとうございました😊