【ショート・ショート】三叉路
去年の正月に行われた中学の同窓会で、美鈴に会った。
カッちゃんと呼ばれたのは久しぶりだった。昔から明るい子だったが、二十年の月日がそれに輪を掛けていた。私が冗談を言ったり揶揄ったりする度に、美鈴はやだーっと笑いながら肩や腿を思い切り叩く。これには閉口した。
東京に戻って暫くすると、地元の友人がスナップ写真を送ってくれた。お礼の電話を入れると、友人は切り際に、美鈴の夫婦仲が悪いことを教えてくれた。私はそんな情報など知りたくもなかった。私は言い知れない嫌悪感を覚え、そそくさと受話器を置いた。
そう言えば美鈴は、私が来ると聞いたから参加したのだと言っていた。改めて写真を見ると、私の側にはいつも美鈴が写っている。
噂の俎上に上ることは承知の上で、私に会うために出てきてくれた。家族のことに話が及ぶと少し表情が曇ったように感じたのは、気のせいではなかった。
「こんなに笑ったの、久しぶり」
美鈴は涙を拭きながら、そう呟いた。
それから間もなくして、美鈴が離婚したと風の便りに聞いた。
今年の正月。
私は帰省するなり美鈴に電話した。
「今日の同窓会、どうするの?」
「出席するつもりだけど……」
美鈴の問いに答えながら、ふと子供の頃のことを思い出した。
それは私が幼稚園児の頃のこと。
私は登校する小学生の姉を泣きながら追いかけたことがある。流石にその理由までは覚えていない。家から百メートルほどの三叉路で、ばったりミーちゃんに会った。
私は恥ずかしくて家に駆け戻った。母に諭されて飴玉を握りしめ、とぼとぼと三叉路まで戻ると、ミーちゃんが待っていてくれた。私が黙って飴玉を差し出すと、ミーちゃんは微笑んだ。一緒に飴玉を頬張ると、私の足取りは軽くなった。
ただそれだけのことなんだが、無性にあの頃のミーちゃんの笑顔が懐かしくなった。
「ミーちゃん、一緒に行こうか」
「うん」
「じゃあ、あの三叉路で待っているよ」
少し風が出てきた。私はコートの襟を立てて、少し早めに家を出た。