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【ショート・ショート】魔法使い

「ママが消えちゃった」
 三歳の息子が泣きそうな顔で母親を探している。妻は、息子に気づかれない様に、そっと出掛ける。いつも後ろ髪を引かれながら……。
「おいで」
 私は息子を抱き上げる。
「ママは魔法使いだからな」
「魔法使い?」
 息子は私の投げたえさに早速食いついてきた。
「そう、魔法使いだ」
「お空、飛べるの?」
 息子の頭の中には、きっと大好きなアニメ『魔女の宅急便』の一場面が浮かんでいることだろう。
「あの体では、無理かな」
 私は苦笑した。もう産後から三年以上経つのに少しも元に戻らないと、妻は嘆いている。

「ママ、お空、飛んで見せて」
 息子は見よう見まねで作った新聞紙のほうきを手にしている。
「えっ?」
「ママ、スマートになったから、きっと乗れるよ」
 妻はこのところ急にせて、妊娠前の体重を切ってしまった。
「まあ、いつそんな言葉、どこで覚えたの?」
 妻は、息子の成長に涙ぐんだ。

「ママは、お空に飛んで行っちゃったの?」
「そうだね……」
「いつ、帰って来るの?」
「そうだな。たっくんが、一人でお着替えができるようになったら、かな」
「わかった。ボク、がんばる」

 多分、息子は直ぐにこの課題をこなすことだろう。

 次は、どんな言い訳にすればいいのだろうか……。

<了>

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来戸 廉
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