作話:しるとさわるもの
すべて嘘です。
火のないところに煙は立たぬって言うでしょう。
逆に言ってしまえば、
煙を立たせればいいんです。
人はわからないものに理由をつけたがる生き物でしょう。
だからこう思わざるを得ない。
この話がここまで広がっているからには、きっとなにか原因があるのだろう、と。
考えてみてください。
なんの変哲もない、なんにもないただの道にあんな妙な噂が立つなんて普通じゃない。
事件が起こったのか、事故なのか、それとも何か別の要因なのか。
それがなにかは分からないけど、火種となった原因があるに違いない、と。
そう考えられませんか。
そうしてあれらは広がっていったんです。
だから、知ろうとしてはいけない。考えてはいけない。
さっきからずっと聞こえているあの音も、声も、あなたの首筋をかすめる黒くて長い髪も、きっと気のせいです。
つかれてるんですよ、お互い。
そんなもの聞こえない?後ろに何もない?
ほんとうでしょうか。
わからないならその方がいいんです。
わたしはもう駄目かもしれません。
あなたもどうかお元気で。
はやく忘れられますように。