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ときをためる「人生フルーツ」を観て

土曜日のこと、ドキュメンタリー映画『人生フルーツ』を、キノ・イグルーさんが主催する映画祭で観た。あいにくの雨の中、横須賀美術館まで行った。

一言で要約するのならば「豊かさとはなにか。」そんなテーマがだと思う。
愛知県の高蔵寺という地域を舞台に、建築家の修一さんと、修一さんを支える英子さんのドキュメンタリー。映画の中で胸に刺さるシーンは本当にたくさんあったのだけれど、いくつか頭を離れない場面や言葉があるので、書き留めておこうと思う。そして、この映画はわたしの人生に大きく寄与することになったことも、最初に記しておく。

映画の中で何度もでてきた「こつこつ」「ゆっくり」「じっくり」というワード。生き急いでいるように生きているわたしに向けられた言葉のような気がした。

「風が吹けば、枯葉が落る。枯葉が落ちれば、土が肥える。土が肥えれば、果実が実る。こつこつ、ゆっくり。人生、フルーツ」

樹木希林さんがナレーションをつとめるこの映画、何度も希林さんがこの言葉を繰り返した。わたしたちの生は、自然の中の、ただ、ただ一部であること。そういうことを感じた。循環のなかに生きているということ。そこに逆らうことはせず、ただ、生きていくということ。それで十分だということ。
生きていくこと、そして死んでいくこと。すべてがなんでもない日常のなかにあることを、わたしが納得できるのはいつになるのだろうか。

「ときをためる。」

という言葉が、映画の中で何度か出てきた。ときをためる。とはどういうことなのか、わたしは映画を見終わった後もよく考えた。積み重ね、や、時間をかける、というニュアンスとも少し違う。目には見えない時間というものを、じっくりためていく。それが、自分の糧になることを、大切なひとを救うことを知りながら、きっとふたりはそういう風に生きていたのだと思った。少し考えたあとで、言い換えの言葉など「ときをためる。」という言葉にはないのかもしれない、と思った。

当たり前のことを言うけれど、この一瞬が戻ってくることはなく、ひとはこの一瞬で変わっていく。細胞分裂を休むことなく繰り返し、心だけではなく、この容姿だって着々と変化しているのだ。
そういう一瞬をどこまで愛することができるかで、人生の豊かさが変わってくる気がする。

もうひとつ、印象的なシーン。
80代後半を迎える英子さんが、月に一度食材を調達しに行くシーン。何年も同じところで、信頼できる人からものを買う。家族の口にはいるものは、英子さんが選ぶ。年間80種類以上もの野菜や果物をそもそも栽培していて、半自給自足的な生活ではあるのだけれど、とにかく英子さんのその手仕事ひとつひとつは、家族を支えるためにあるということがよく分かる。

そのなかでこんなことを英子さんが言っていた。
「だんなにいいものを着せて、いいものを食べさせる。そうするとだんなが良くなる。だんながよくなると、まわりまわって自分がよくなる。」
最初に紹介した言葉と同じ、これもまた「循環」なのだ。最初から自分のために、と思って行動するより、誰かのためにしたことが、いつかまわりまわって自分に巡る、そういうことの尊さを英子さんは知っているひとなのだと感じた。

同時に、自分のなりたい奥さん像も浮かんだ。
わたしは、ひとになにかをするときにエネルギーが湧くタイプ。支える側でいたい、という気持ちのほうが強い。でも、じっくり考えてみると、そもそもは、支えるも支えられるもきっと、ない。ひとは支えあって生きているのだから。支えることで、支えられている。誰かを想う気持ちにいつもひとは支えられているのだ、と。そう感じた。

だから、結婚はすごく重要なのだと思った。だれと生きていくかが、すごく大切なことなのだと感じた。

わたしはこの映画を、別れ話をしかけている彼と観た。横須賀美術館に行く道中、車の中で煮え切らないわたしにしびれをきらして「別れよう。」と彼が言った。わたしは「映画をみて考える。」と言った。結婚まで話が進んだ彼と、ひょんなことで躓き、ブレーキをかけてしまっていた。

映画を見ながら、何度か涙が溢れた。その隣で、同じ場面にきっと彼も涙を流していた。わたしは映画を見ながら、彼との将来を考えた。きっと彼も同じように想像していた。

わたしは、自分にとっての豊かさがどういうものであるか。改めて考えた。誰といると、心が豊かなのか。愛すること、愛されること、それはどういうことなのか。もちろんそんな壮大な問いの答えは分からない。分かるのかも分からない。

でも、見落としてはいけないことはよく分かった。愛されていることを蔑ろにしてはいけない。わたしは、わたしの幸せを考えなければいけない。

わたしは、映画が終わったあと、彼と同じ家に帰った。

彼と今、夏から住む家を探している。

できれば豊かに、できれば心地よく。そういう人生のために、私に必要なことがなにか、考えるきっかけをくれる時間だった。映画だった。ひとたちだった。

今は亡きおふたりの人生に、こころより感謝の気持ちを送りたいです。

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Yuuri
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