牡丹 27
望めば叶う
浮世の出来事
打ち水代わりに
蜜を撒き
群がる四季の
蟲の声
「そろそろ部屋に戻ろうか?」目蓋を擦るコユキにつられて欠伸がでた。
「お風呂入りたいな。お部屋にあったよね?」
「はい。少々狭いですが、汗を流す程度なら丁度良い造りになってます。大浴場も御座います」
「他の客人も居るんじゃない?」
わたしは他人と風呂に入る事が苦手で、温泉に行ったことはあるが、それも幼い頃の記憶だ。
母に連れられ草津温泉に行った。硫黄の匂いとゴツゴツとした岩の露天風呂。冬の夜空は空気の密度が詰まっていて湯気を雲のように拒絶していた。
居合わせた女性グループと楽しく談笑して風呂上がりに牛乳を飲もうと約束をした。手を繋ぎ温泉からあがると「ひゃっ」と小さな嫌悪と離される手。
小さな頃から女顔だったわたしは髪も長かったせいで女の子みたいだと言われていた。きっとあの女性もわたしを女の子だと思っていたんだろう。薄く生えかけた陰毛と性器は突然の異物混入だったのに違いない。
母はわたしの手を取り、そそくさと脱衣所に向かった。従業員と女性がこちらを見て何か話していたが母は「湯冷めしないよう、はよあがろうな」とわたしに浴衣を着せた。
たぶん、あの時から自分の性がわからなくなった。