見出し画像

牡丹 20

大広間に浮かぶ月に照らされ
静寂から解き放たれる雲雀の囀り
最後の小節を歌い終えるとき
潤んだ瞳がライトに反射



拍手喝采にお辞儀をしてステージを降りる。
楽屋に戻る階段で蹌踉めく姿が僅かに見えた。
立ち上がろうとするマチを、ロチは制した。

「コユキ様に、お使えしている身です。慎みなさい」その言葉にコユキが表情を変えた。

「私は、ただの宿泊客だよ。事情はわからないけど、マチさんの気持ちはわかる。マチさん、行っていいよ」

マチは、コユキに「嬢様、有難う御座います。直ぐに戻ります」と頭を下げ
ステージ横の扉から、楽屋へと走って行った。


わたしは、ロチの固く握りしめられた拳を撫でた。
悪いがこんな時にかける言葉を知らないんだ。ごめんね。

この娘達の事情は知らない。コユキが言ったとおりだ。
偶然、駆け込んだ宿に 偶然、居合わせた。
ただそれだけの縁。。

いや、駅に着いたときから何かがおかしい。
部屋でおきた事が全て、幻夢の類いだとしても
どうしても気になる。

ロチが動揺して口走った"コユキ様"。。
わたし達の名前を伝えた覚えがない。
知らない間に、コユキが言ったのだろうか

「ロチさん、ビールってある?喉が渇いちゃってさ」

「はい。お持ちいたします」

「じゃあ、生ビール2つね。ありがとう」

ロチは、直ぐに戻ると告げ出ていった。

「コユキ、わたしとセックスした事覚えてる?」
唐突な質問だな。だけど、聞いておきたい。

「えっ、うん。硬くて大きいのが入ってきた。」
頬を赤らめる。
そうか、やっぱり幻肢ではなかった。わたしは股間に手をやるが、つるんとした感触しか無かった。

「覗かれていた記憶はある?」

「うん。沢山の視線を感じた。だれも居ないのに」

わたしの見えていたものは、コユキには見えなかった。それを聞いて少しだけ、ほっとした。

「小夜ちゃん、お願いがあるんだけど…」

「何?」

「また、してほしいんだ。小夜ちゃんに挿れてほしい」

抱きつかれて、弄られると下腹部に熱が集まり、膀胱が沸騰した。
わたしの突起がどんどん肥大して、下着からはみ出していく。スカートを捲くられコユキの指が尖端に触れた。

「嬢様、おまたせ致しました」

生ビールを2つ持って、ロチが戻った。
その先に視線が向かう。

傍らに老婆がにんまりと歪んだ笑みを浮かべ立っている。

「マチの我儘を聞いて頂き、有難う御座います。お食事とお酒を御用意します故、お気を悪くなさらんで下さいまし」

「いや、気を悪くなどしてません。ただ、お伺いしたいことがあります」

「なんでございましょう」

「お代は、お帰りの際にと言っていましたが、宿代は、お幾らなんですか?」

クックックっと、嘲笑う声は老婆のものではなく、いつの間にか、集った動物の面を付けた異形達だった。

「嬢様、金銭で得られる物は不浄だとは思いませぬか?私達が求めるものは金銭ではございませぬ。」

―コロン

ビー玉のような真珠が3つ。膳の上を転がる。

「嬢様、本日のお給金で御座います」

「給料?」大ぶりの真珠を、わたしの右手に押し付ける。

「おふたりの交尾は最高じゃと、偉く評判でして、本来ならば、刺し身にするつもりでしたが、慾神様たちから、粗末にするなとお叱りを受けまして」

ヨクガミサマ?

それは、この異形達だろう。
わたし達を視姦して楽しんでいたと。
逆らえば喰われる。

錆びついたカッターナイフを突きつけられる。