牡丹 30
だから、わたし達は生きることが下手なんだろう。
コユキの告白は純粋な直球で、わたしの心臓に突き刺さった。「セックスがしたい」わたしは月が揺れる湯を覗き込んだ。自分がどんな顔をしているのか、コユキよりも先に確認したかったから。
「ね?笑えるでしょ?もっとさ、言い方ってあるよね。恋人が欲しいですとか、お嫁さんになりたいです。とかさ。」
ぶくぶくと湯舟に鼻の下まで浸かり、コユキは大きなアブクを幾つも吹き出した。
「いい願いじゃん。ストレートでさ。コユキらしいよ。本当に」
「そうかなぁ。小夜ちゃんがそう言ってくれるならまあいいか。」
「うん。そうだよ」
お椀型の胸。
切り貼りの下半身。
夜空に浮かぶ
わたしはマネキンみたいだ。
不可思議なこの湯屋に居る間だけ、コユキの願いを叶えてあげられる。いや、違うな。異界の禍々に集う神々の晒し者になることでしか叶えてあげられない。
「コユキさ、普通の男に抱かれなよ」
「小夜ちゃん、どういう意味?」
「だからさ、わたしみたいな、どっちつかずの人間じゃなくてさ、普通の男の人と結ばれなよ」
なんで、こんな事言うんだろう。
本当の気持ちを言えばいいのに。
頬を涙がつたう。
何年ぶりだろう。人前で泣くなんて。
ぎゅっと背中に柔らかい感触がした。
「小夜ちゃん、大好き。普通なんて知らないよ」
「コユキ…」
「わたし、このまま小夜ちゃんだけを知っていたい」
重なる唇の匂いに、沢山の視線を感じた。でも、今はどうでも良い。
絡めた舌先が蛇になろうとも、どうでもいい。