牡丹 18
霜月に揺れえう
夜な夜な 風見鶏
アルコールを頂こう
小銭を集め
ビアホールと洒落込もう
本を捨て街へ出よ
黒電話がケタタマシク鳴く。
折角の微睡みを不躾に一時停止する鳴き声に僅かな苛立ちをおぼえる。起き上がり受話器を取る。滑舌の悪い男の声は、町内放送のスピーカーを彷彿させた。
「番頭でごぜいやす。嬢様、お食事はお部屋でよろしいでしょか?宴会場もごじぇますが、おすすめはせんです」
受話器を塞ぎ、化粧を直すコユキの背中に話しかける。
「食事が付くみたいだよ。部屋と宴会場、どっちがいい?」
「宴会場は…」言葉に詰まる。
「宴会場がいい!!」いや、それは辞めたほうが…
嫌な予感しかしない。。
無邪気に笑う姿をみて、やはり幻夢だったんだと思うことにした。
「宴会場にします」
「それはそれは。嬉しゅうごぜえます。案内をさせますゆえ、暫しお待ちくだせぇ」
―ガチャッ
「何か、迎えに来るらしいよ」
「凄いね。お婆さんに料金聞かなかったけど、お高い宿なんじゃない?」
言われてみればそうだ。「お代はお帰りの際に」
婆さんの言葉がリフレインする。最後まで聞くべきだったのか。。
―トントン
「お迎えに参りました。宴会場へご案内致します」
おかっぱの子供が2人、廊下に立っていた。
白いブラウスに黒いスカート。
双子だろうか、それとも同じ格好をしているから…
いずれにしても、そっくりなことに違いは無い。
「わたくし、給仕のマチで御座います」
「同じく、ロチで御座います。嬢様のお世話をさせていただきます。よろしくどうぞ。それでは、お食事にご案内致します。どうぞこちらへ」
ロチとマチについて行く廊下は、思いのほか長くて同じような置物が幾つもこっちを見ている。