彼は美しかった

ずっと見ていたかったくらいに。よく通ってハリのある声で、肌は白く健康的なつやがあった。太さもしなやかさもちょうどよい黒髪は彼をいっそう魅力的に見せていた。でも私が一番魅了されていたのは彼の魂の美しさだった。それは仏のように清浄な心という意味ではなく、どちらかといえば花火のように刹那的に眩しく輝いていた。静的な黄金比をたたえているわけでは決してなく、むしろいびつな形をしていて、激情を籠めたアシンメトリーの現代アートみたいな具合だ。でもそれが、鬱屈とした社会を恨んでいた私には、とんでもなくrevolutionaryで美しく思えた。まさに私の精神世界に舞い降りた革命の寵児だったのである。これは大袈裟な表現でもなんでもなく、私は実際に彼の信者だった。(信者という言葉は私の別の友人が私を評して使った表現である。)むろん、友達でも愛人でもあったが、私をああまでさせるのは恋心だけではなく、信仰心であったというのが今思えば嵌る表現である。
私の世界はこの二十余年間ずっと、彼を欲していたのである。

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