失われて、気づく大切さ Vol.2
奥様が突然泣き出しました。顔をくしゃくしゃにして。
「この人が笑ったの、10年ぶりくらいよ。この病気になってから始めて」
その時、ご夫婦の苦しみの深さをおぼろげながらも知りました。はっきりとした訴えはありませんでしたが、ご主人は以前の車椅子では体が痛くてつらい思いをしていたのでした。だから、長時間車椅子に乗ることもなければ、車椅子でアスファルトの道を移動することも避けていたのでした。体に合った車椅子を選定し、体に合わせて調整したため、首も安定し身体も楽に座れるようになった。だから、ご主人は「これなら、外に出られる」とおっしゃったのです。
もともと人の輪の中にいた人で、今はこんなですけど、よく笑う人だったんですよ。口数も減ってしまって・・・。奥様の言葉から推察するしかありませんが、ご主人は1人で戦っていたのでしょう。病と、そして体に合わない車椅子とも。それからは、ご夫婦そろって涙を流しながら「ありがとうございます」。何度も何度も、お礼の嵐になってしまいました。「よかったですね。お花見も間に合いそうです」つられて泣かないように、早々に車椅子の使い方や今後の流れを説明して退散しました。
桜が散る頃、担当のケアマネジャーさんからお電話をいただきました。「先週公園に行ったら偶然、お花見しているご夫婦と会って。私は10年担当させてもらっていたけど、あんなに楽しそうなご夫婦の顔を見たのは初めて。いい人を紹介してくれてありがとうって、私までお礼を言われたのよ。本当にありがとうね。もっと早くお願いしたらよかったわぁ」
。。。あの時、一番うれしい思いをしたのはきっと、私だったと思う。利用者から喜ばれ、ケアマネジャーから感謝され。そして、勉強し技術を身につけることが力になることを思い知るケースともなった。
たかが花見。されど・・・。
車椅子ユーザーが外出できない理由はひとつではない。このご夫婦は車椅子シーティング(座位姿勢を保てない人が座れる車椅子を作る技術)で解決した。しかし、それだけでは解決しない。そして多くの場合、車椅子を使い始めると一生使うことが多い。そのため、このご夫婦のように「二度と○○できない」と苦しんでいる人が、実は日本中にいるのです。そして、あなたはその理由のひとつを解消する力を持っています。
通りすがりに困っている車椅子ユーザーを見かけたら声をかけてください。
「お手伝いできることはありますか?」と。
やり方が分からなければ、本人に聞いてください。「どうすればいいですか? 初めてなので教えてください」それは、恥ずかしいことではありません。初めてのことは誰でも分からないものです。
あなたは、あなたが思っている以上に”誰かの力になれる存在”なのです。