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Audible探訪記3「大名倒産」浅田次郎著

ー誠意(まごころ)を、君にー


闇に潜むモノの
その悉くを

明るみに引きずり出すかの如く
ヒカリあふれた現代において

“魑魅魍魎”(ちみもうりょう)
とは

妖怪、変化、
などを指す言葉ではないらしい…



「ぁあ、いつぞ拝見した
市営動物園の猿山のサルたちの
唯一の楽しみは
日にたったの2度ばかり。
ワレモワレモと
目の色変えて
バナナ食パン抱えつつ
リンゴを頬張る姿は

浅ましきかな、滑稽かな、
はたまた
この世の悲哀を総て含んだ
愛らしさかな…」


降って湧いたトップの座
ワレコソハと
色めき立つ者達などは
どうやらまだ
人としての原型をとどめているだろうか


「この令和の世において
責任とって詰め腹をなんて時代錯誤にも程がある」
とばかりに
臣の嘆き、民の憤りも
どこ吹く風と

剥がれに剥がれた
化けの皮

日々悪臭を振りまきながらも
決して離すもんかと
税で拵えた贅の限りの座にしがみ付く狐狸の類は
一歩手前。


下にも置かぬ大殿様
地位と名誉と
全て手にして幕を引き
今は悠々自適の好々爺。

その内実は
先祖代々からつづく
無智と無策と無恥と
さんざっぱらの放蕩故に
積みに積み重ねた負債の数々。

お国の財政はまさに火の車。

「なぁに。
いざ倒産となれば
たとえ斬られても
痛くも痒くもない
都合の良い若造が一人。
ソレに総てを押し付けて
いやぁ、万事目出度し。」

現代に限らず

有史以来
このような
人にあって人に有らざる者。

このような怪物のことを
暗に

“魑魅魍魎”と

人々は
呼んでいたのかも知れない。


「大名倒産」
著者:浅田次郎 朗読:菅沢公平

まず、断っておくと
俺は
直木賞受賞作「鉄道員(ぽっぽや)」以来の
浅田次郎氏の大のファンである。

「壬生義士伝」「蒼穹の昴」「シエラザード」
「プリズンホテル」「きんぴか」…
などをはじめ、短編、エッセーも含め
数々の大傑作を生み出し
今も尚現役で執筆
(書くと言っても実際はパソコンやタブレット、はたまたスマホなどに打ち込む作家が大多数を占めるなか浅田次郎氏は原稿用紙に自筆に書き込むストロングスタイルである。カッケー!)
の傍ら直木賞選考委員も勤める
名実共に大御所の
アレコレは今更語るまでもないと思うし

その人となりを知りたきゃエッセーを読め!

ともおもうが

“作家を目指してたら小説のような人生を歩んでしまった”
著者の魅力は
簡潔かつ洒脱な文章のなかにも
どことなく汗や泥のかほりがする

そこいらのうらなり文学青年などは
逆立ちしたって書けようがない

いわば
“ドカタ”文
である。

そして、純文学の素地を丁寧に裁きつつ
読者をいかに楽しませるか
という部分に主軸を置いて
小説を織り成す
他に類をみない
大エンタテインメント作家である。

俺が今日まで
ギリ、マトモでいられるのは
(今んとこだが)

我が思想的良心
漫画では藤田和日郎氏
小説では浅田次郎氏
の作品の影響のお陰であると思っている。

つまり、神的存在であり

作品についてニュートラルに
正当な評価はできないことを
先に明記しておく

とはいえ、やっぱオモシレーのよ。

読め!
読むのがメンドイなら聴け!

ということでオーディブルの出番である。

ストーリーは

藩の計画倒産を目論む「ご隠居」
に対し
(ご隠居の策により)突如殿様に抜擢された
無垢で実直なる庶子
(奉公に来ていた村娘にご隠居
が“手をつけて”出来た子)
「小四郎」が
いかんともし難い藩の財政を立て直そうとする
物語

こういうストーリーは如何にもありがちだと思うかもしれないが

本来、藩を継ぐはずの義兄がとても憎めないキャラだったり、
意外な人物が予想外のファインプレーをかましたり
果ては
七福神、貧乏神といった神々の暗躍(!?)
があったり。

とても常人にゃ書けようはずはない

さすが浅田師匠!

という場面のオンパレード。

もちろん、涙なしには読めぬ(聴けぬ)
シーンもあり。

ファンならずとも必読(必聴。しつこいか。)
の一冊であることはまちがいない。

そして、ネコ好きのあなた!


“この文はネコ好きにしか書けんわ”
という一文があるので是非とも
お聴きを。
(実際、浅田先生は大のネコ好き作家である)


親世代の逃げ切りと負債にあえぐ子供世代……と現代にも身につまされるお金をめぐる新旧交代の物語。”

と、作品紹介にはあるが

この文
俺的にはちょっとズレてる気がする。

この作品はなにもそういう世代間抗争、
ジェネレーションギャップを描いているわけではない。

いわば

“誠実”と“不誠実”
の対決である。

国でも
自治体でも
企業でも
またはサークルのような
小さな団体でも

トップに据えるべき人物として

“誠実”であるか否か
というのは

一等わかりやすい
物差しではなかろうか



そんなトップをついぞ見たことはない

クロスケは思うのであります。

朗読者 菅沢公平さんの実直な語りも
作品にマッチしてますよ。

作品:★★★★★★★★★★
朗読:★★★★★★★★★★
おすすめ度:★★★★★★★★★★
(※本作においては、贔屓目ブースト発動中のため、
評価の参考にはなりません。)

聴いた日の夕食は絶対に鮭!度★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


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