3行日記 #225(チャック、三度目の正直、敏感)
十月二十日(日)、晴れのち曇
寒露、蟋蟀在戸、きりぎりすとにあり、キリギリスが家の中で鳴き始める。
寒露、菊花競開、きくかきそいひらく、菊が競って開き咲く。
夜、妻の実家で、手羽元と野菜の煮物、きのこの炊き込みごはん、キウリとカニかまの小鉢、トマト、キウイ、チーズケーキ。食後に読売新聞の数独をした。チャックの散歩、妻は午前と夕方と、すでに二回散歩をしていたのと、皿洗いがあるため、私ひとりで行ってきて、ということになった。実は、これまでにも二回、チャックと二人だけで散歩に出たことがあるのだが、結果は芳しくなかった。一回目は妻が風邪を引いて体調がすぐれず、一人で行くことになった。門の外の通りにでたものの、すぐに止まってしまい、後ろを振り返り、妻の姿を待っていた。きょうは来ないよ、二人で行こうと声をかけて、なかば強引に引っ張りつつ、少しずつ前進し、北の通りに出るところくらいまでは進んだが、結局、すごい勢いで綱をひいて駆けだし、家に戻ってしまった。二回目に至っては、家の前の通りにでただけでまったく動かなくなり、仕方なくそのまま家に戻った。そして今回が三度目。どうなることやら。私はおばあちゃんから手渡されたおやつを握りしめ、外に出た。
やはり、今回も外にでたところで止まり、後ろを振り返り、妻の姿を探した。引っ張っても動かない。先ほどもらったおやつをちいさくちぎって口に近づけた。チャックは歩き始めた。後ろめたい気持ちもあるが、餌でつるしかない。神社の境内に入る。本殿のほうから、手を打つ音が聞こえ、しばらくして二人の男の影が近づいてきた。チャックは足を踏ん張り、影のほうを見つめた。妻かもしれないと思っているのだろうか。男が通り過ぎるのを待って、妻ではないことをチャックにわからせてから、再びおやつをちらつかせて前に進んだ。
ファミマの近くでは、自動ドアが開いて買い物客が外にでてくると、また妻の姿を探しているのか、両脚に力を入れてふんばった。食いしん坊の力をうまく利用しながら、前に進んだ。コンビニを折れた路地の突き当たりの角で、うんこをした。ビニール袋に手をいれ、うんこを握る。むにゅっと柔らかな感覚と、じんわりと温もりが伝わってくる。そのあたりから、いつものように後ろを気にすることなく、散歩するようになった。定番のJRの駅をかすめるコースをたどり、境内に戻った。私ひとりだけだから、いつもよりも自由になれると思っているのか、入念に匂いを嗅いでいるような気がする。さすがに長いところがあったので、チャックぅ、と声をかけると、びくん!と首をこちらに回して視線がぶつかり、すぐさま前進した。その後も、面白がって名前を呼ぶと、いつもよりも敏感に反応した。神社の境内を抜けて、自宅の前の道に曲がると、再び脚を強くふんばった。おやつがほしいのか。赤いショルダーバッグからおやつのケースを取り出し、薩摩芋のおやつをあげた。満足しただろうと綱を引くが、まだ脚を踏ん張っている。帰ろう、みんな待ってるよ、と声をかけるが、まだ帰りたくないみたいだ。ずずずず、ふんばる力に逆らって綱を引っ張り、チャックがコンクリートのうえを滑った。待っているほうは長く感じてやきもきしたのか、玄関の引き戸を開けると、妻とおばあちゃんが顔を出して、えらいしっかり行ってきたね、と言った。これで散歩、任せられるな、とおばあちゃんは嬉しそうだった。