3行日記(叱る、和毛、整形手術)
十一月十五日(水)、晴れ。
夕方、いつもの喫茶店で。自転車がひっくりかえってる、倒れてる、きちんと直しとかなあかん。いつもだれかれかまわず他の客に声をかけているおじいちゃんが、入ってくるなり小学生の男の子のグループを叱りつけた。どうやら店頭に並べていた自転車が倒れて、商店街の歩行者の邪魔になっているらしい。男の子たちが外に行って戻ってきてそわそわしていると、もうきれいになった。食べとけ。へっへっへ、と笑ってあっけらかんとしている。叱られて恥ずかしかったのか、子どもたちはまわりの様子を伺いながら、静かにホットドックに齧りついていた。その後も、おじいちゃんが話しかける。それ晩飯か。もっとええもん食わなあかんで。今どき、こんなふうに子どもを叱りつける人はめずらしくなった。帰り途、喫茶店でいつも見かけるおばさんが、角にあるたこ焼き屋の主人と、カウンターの窓越しに会話していた。
夜、キムチチゲ鍋、自家製ジンジャエール。チャックの散歩、夜の公園で、ひゅんひゅんひゅんひゅん、空気を切り裂く音が聞こえる。闇の中で男が縄跳びをしていた。本を読んでいて「和毛」という言葉を覚えた。「にこげ」と読むらしい。手元の辞書をひくと、鳥獣のやわらかな毛、わたげ、うぶげ、とある。チャックの和毛はどこだろうか。下腹の毛か、あごの下の毛か、眉間の毛か、それともたぷたぷしたほっぺたの毛か。
玄関の足元に陶器でできた白い犬の置物を置いていたのだが、ある日、妻が改造すると言って持ちだした。きょう戻ってきたのだが、粘土で肉づけされて、色を塗られ、整形手術を終えた置物はすっかりチャックになって帰ってきた。
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