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【随筆/まくらのそうし】 ガガンボ

 ガガンボが苦手である。

 ががんぼ、という音もさることながら、あの細い体、長い足が気味悪い。大きい、というと少し語弊があるが、それが占める空間を考えれば、かなり大きい虫だと言ってもいいだろう。

 無害で壊れやすく、儚い虫だと分かってはいても、河川敷に飛ぶガガンボを見ては、ぞっとしていた子供の頃そのままに、いまもそれを見かけると、怖じ気づいている自分がいる。

 ところで、先だってガガンボの女王に出会った。

 日暮れの頃、部屋の網戸にじっと張り付いたそのガガンボは、とても美しい羽根をしていたのだった──まるで模様編みしたレースのような、繊細で優雅で、伸びやかな羽根を。

 その様子があまりに気高いもので、女王だろうと見当を付けた。羽根が肩から垂らしたマントなら、その小さな頭上には小さな王冠が載っている。

 これは本当に女王なのか、それとも、ガガンボという生き物は、元から気高いものだったのか。

 長年、恐怖に目隠しされて、知る術などいまはない。

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黒澤伊織@小説
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