【随筆/まくらのそうし】 鵺
夜の山に鵺の鳴く。
フィー、ヒョーと、振り子のような一定の間で、物悲しげに鳴いている。
この鵺というのは、トラツグミの別名で、古くは平安の時代、万葉集にも、幾つか鵺の歌がある。
寂しい、悲しい、そんな思いを、先人は鵺のこの声に乗せたのだ。
ところがこの鵺、平安の後、平家物語では、恐ろしい怪物として描かれる。
顔はサル、体はタヌキ、トラの手足に、尾はヘビで、薄気味悪い声で鳴く、源の某が退治した鵺は、トラツグミとは似ても似つかぬものである。
貴族の世から、武士の世となり、人の心は移り変わり、その移り変わりが、物悲しげに鳴く鳥を、退治すべき、闇の怪物へ変えたのだ。
平氏と源氏に端を発した、争いの世に正義などない。ただ必要なのは、倒すべき相手、悪に敵。
いまの世、鵺を聞く人は、その音を何と聞くだろう。気味悪い、そう聞く人も多かろうと思いはするが。
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