ロン毛にしてよかった。
初めてロン毛に憧れたのは中学2年生の時。
『銀魂』にでてくる桂小太郎というキャラがかっこよくて俺も同じようなロン毛になりたかった。
「髪の毛伸びてきとるで床屋行ってきな」と母に言われても「髪の毛伸ばしたいから行かん!」と宣言し、しばらくの間伸ばしていた。
しかし俺の毛根は桂小太郎のようなサラサラストレートではなく、生粋の天然パーマであった。
短髪ならばあまり目立たない天然パーマも少し伸びてくると本性を現す。
俺の毛先はグリングリンに巻きまくり、おしゃれどころかボサボサのダサい髪型になってしまった。
当時は太っていたので、デブな上に髪が長くてボサボサ。清潔感のかけらもない。
更に言えば、伸ばしすぎると校則違反になるのでそもそも無理だった。
やむを得ずロン毛は諦めた。
中学を卒業してからは高専に入ったので、校則に制限される事はなかった。
高専には教員免許を持った先生はいない。
授業をするのは一研究者の教授であり、環境的には大学とほとんど変わらないのである。
サラサラヘアーのロン毛にはなれないが、くるくるロン毛もそれはそれでかっこいい。
ロン毛への思いは再燃した。
だが結果的に高専でロン毛になる事はなかった。
俺は野球部に入っていたのだ。
とはいっても高専野球部は坊主にしなくても良いのだが、帽子やヘルメットをかぶる時の事を考えるとやはり短髪の方が良い。
ロン毛だと蒸れるし、髪の毛にめちゃくちゃ砂が入るのだ。
やむを得ずここでもロン毛を諦めた。
その後、高専を中退して先輩と共に養成所へ入るため上京すると決めた頃。
俺は遂にロン毛へのスタートを切る。
髪の毛は大体1ヶ月に1センチ伸びるらしい。
一般的に男子の髪型からロン毛と呼べるくらいまで伸ばすには大体10ヶ月くらいはかかる。
養成所に入ったばかりの4月には、まだ伸び切ってはいなかった。
しかし夏を迎える頃には完全に髪を結べるようになり、ここで遂にロン毛デビューを決めたのだ。
ロン毛になった自分は、あまりにも格好よかった。
最初は「ロン毛?辞めときなよ〜」と言っていた家族もロン毛になった俺を見るや否や、あまりの格好よさに平伏し、自分の愚かさを恥じていた。
俺は学生時代ブサイク側の人間としてしか扱われた事がなかったが、ロン毛になってからというもの、俺はイケてる側の人間として扱われる事が増えた。
ロン毛にしたことによって俺の人生は一変した。
俺はロン毛が似合う男なのだ。
ロン毛にしてよかった。
そう思っていた。
そこから三年ほど経った日、俺はヘアードネーションをした。
俺のロン毛は病気や事故などで頭髪を失った子供たちのカツラになるのだ。
俺の髪は桂小太郎にはなれなかったが、カツラになることはできたのである。
綺麗なロン毛を維持するためにシャンプートリートメントをしっかりして、ヘアオイルも毎日塗っていたので良質なカツラになったことだろう。
その後、久々に短くなった髪の毛も悪くはなかった。
ロン毛にしたからイケてる側になったのかと思っていたが、短くなっても何故かイケてる側のままだった。
どうやら髪型の問題ではなく、芸人の世界に入ったことによって周りのレベルがガクッと落ちたお陰だったようである。
でもやっぱり自分の中ではしっくりこなかったので、そこから1年半髪を伸ばし、またロン毛になった。
周りどう見られるかは結局あまり関係ない。
自分が1番好きな髪型にするのが1番良いのだろう。
おしまい。