宿題テーマ「睡眠」
睡眠1
黒崎 水華
Minervaの羽音が訪う窓辺
寝室の部屋には死神が棲む
(眠っているのは誰?)
顔のない怪物はわたしたち
そして羽根のない梟は貴女
白い睡蓮が花咲く庭で佇む
夜半、秘密めいた悪意の中
しずかに蠢いていた下腹部
胸部を左右に開いては覚醒
(眠らないのは 誰?)
寒い冬の朝、羊が皿の上で待つ
あなたに瓜二つの顔を解凍した
睡眠2
黒崎 水華
娘の横顔を眺め寝息を確認する
繰り返される呼吸の正しさ
白い群れの羊に紛れて眠っている
夜毎、わたしは黒い羊を宥める
凶暴な訳でもないのにおぞましい
その毛が人の髪の毛だとして
これは誰の顔をしているのか
想像は容易く這い寄ってくる
肋骨を開いて胸中から白い睡蓮を
こっそり盗んで食べているそれ
「今日も生き永らえたね」
わたしの顔でまだ鳴いている
わたしたちは軈て現実に根を生やす
睡眠と謂う百匹目の魔物
睡眠3
黒崎 水華
娘の羊は透き通るほど青白い
(百匹目の魔物)
わたしの羊は夜に紛れ
夥しい夢を収穫する睡魔
静かな夜に羊を数えて擬態する
美しくおぞましい悪夢は増殖し
朝まで(おやすみ)囁く夢魔
プランタ・タルタリカ・バロメッツ
プランタ・タルタリカ・バロメッツ
夜半、肋骨を開いて胸の奥で綻ぶ睡蓮
を盗み食いする黒い羊を飼っている
睡眠4
黒崎 水華
血管の青い川底を泳ぐ
白い鱗からこぼれ落ちる光
無数の魚影から降り注ぐ言葉
(眠っている間は向こう側へ旅立っている)
小さな手のひらに水かきの名残
誰かが墓の前で泣いている
(眠っているのか・死んでいるのか)
静脈の美しい蓮の蕾がほころび
やがて動脈を駆け巡る獣の歌声
(厳かな儀式は告別だったか)
透き通った瞼の下
守り人が雪の中で佇んでいる
睡眠5
黒崎 水華
やわらかな曲線のまどろみ
陶磁の慈雨のまなざし
睡蓮は時計台の下でほころび
ゆっくりと死んでゆくように夢へ沈む
(舟底に穴が空いているみたい)
釈迦が横たわる姿にも似た
馨しく衰えた節くれ立つ指先で
萎びた花の骨を拾う
無音の境地でまぼろしを視る
灰を真似た雪が降り注ぐと
声は軈て吸い込まれて消える
睡眠6
黒崎 水華
眠っているのか
死んでいるのか
横たわった夢の形骸から
萎びた花の骨を拾う指先
(呼吸の合間、念仏が流れる
それは綻びる馨りの滅び)
睡蓮の黙祷から厳かに静まる
時間の肋骨を開き心音を聴く
起きているのか
生きているのか
儀式めいた告別は夜に行われる
はらはらと極彩色が降り注ぎ
軈て遠ざかってゆく
睡眠7
黒崎 水華
夢魔と密約せよ」と睡魔が囁く
夜半、青白い皮膚から浮き沈みする
細胞の起死回生を振り子は撫で
寝室で秒針は時間を刻んでは踊る
睡蓮の目覚めが死の予兆ならば
人は疑問を胸に秘めて寝息を立てる
ただ静かになりたいだけの誘惑にも似て
やさしい顔をした失意の悪魔
憂いの眼差しで見下ろす死神
寝言は寝て云え」と怠惰な安眠の歌声
意識だけで結びついて朝には消える
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