まだまだ改善の余地があるんですね！

抗体医薬品の効果向上の可能性　シスメックスが新技術

まずは、この記事の冒頭の部分の引用から始めます。

シスメックスは免疫に関係するたんぱく質である「抗体」を使う医薬品の改良技術を開発した。病気の原因物質と速やかに結合させることで、治療効果を高めることを期待しているという。市場が急拡大しているがんや関節リウマチなどを治療する医薬品への応用を目指す。実用化に向けた作業を始めており、新しい収益源として確立することを目指す。

抗体医薬の歴史は結構長いです。
日米欧での抗体医薬の承認についての詳細は以下のリンクよりご覧下さい。
国立医薬品食品衛生研究所のサイトが非常によく纏まっています。

抗体医薬品 | 国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部

1975年にマウスモノクローナル抗体作製技術が確立したのが契機となり、
抗体の生産技術に目処がつき、製薬企業での利用に拍車が掛かりました。

1986年にUSで承認されたマウス抗体が最初の抗体医薬品です。
ただ、これはマウスの抗体のためヒトに投与すると異物として認識されやすく、アレルギーが起きたり、長く投与していると効き目が無くなります。

その問題を回避するために、1994年にキメラ抗体がUSで承認されました。
これは標的を認識する部分以外をヒトの抗体に置き換えたもので、
異物として認識されるのを防ぐ意図がありました。

さらに3年後の1997年にさらに進化したヒト化抗体がUSで承認されました。
これは抗体で最も大切な標的を認識する部分をヒトに置き換えたものですが、まだ一部マウスの抗体が含まれています。

そして完全なヒト抗体が2002年にUSで承認されました。
下図のように、段階的にマウスの部分がヒトに置き換えられてきました。

＜ちなみに＞
国産初（2005年に本邦承認）の抗体医薬品はヒト化抗体で、
中外製薬と大阪大学の共同研究から出たトシリズマブ（アクテムラ）。
また、小野薬品工業と京都大学の共同研究で生まれた世界的な抗体医薬品として名高い抗PD-1抗体のニボルマブ（オプジーボ）はヒト抗体である。
本邦承認は2014年。

抗体医薬に関する改良の取り組みは上記だけではありません。

最新の工夫としては（独断と偏見で選びました）、
2017年にUSで承認されたロシュの二重特異性抗体があります。
上図を見ると、抗原結合部位というのが2つあるのがわかると思います。
通常の抗体はこの2つの抗原結合部位は2つとも同じ抗原と結合します。
一方で、二重特性抗体の場合は、2つの抗原結合部位がそれぞれ別々の抗原と結合するので、面白い使い方が期待されています。

これ以外にも、
抗体の結合能を高めたもの、血中に抗体が長い時間滞在できるようにしたもの、抗体が何度も利用できるようにしたもの、などなど。。。

本題である今回のシスメックスの抗体の工夫はというと、
抗体と抗原が結合するスピードを飛躍的に高める技術（以下引用）です。

シスメックスは抗原に近づいた抗体が結合するまでの速度に着目。
「荷電アミノ酸」と呼ぶ物質を使うことで速度が上がることを確認した。
スイス・ロシュのがん治療薬「ハーセプチン」に使われている抗体で
約10倍、同「リツキサン」で約1万倍、それぞれ速度が上がったという。

相当スピードアップするそうなんです。
これが実際の抗体医薬品においてどのように応用されるかは
今後のお楽しみですが、この現象が見付かった経緯がとても素敵です。

シスメックスは特定の病原体などに対する抗体の反応を探る
「免疫血清検査」に使う診断薬の製造・販売を手がけている。
新技術は検査時間の短縮などを狙った研究開発の過程で明らかになった。

製薬企業ではない周辺産業からの技術が、製薬業界に流れるという構図は面白いなと思います。こうした技術の流れを見ると色々なドラマがあるんだろうなと1人妄想してしまいました。

ちなみにシスメックスは、国立がん研究センターとの共同開発品
がん関連114遺伝子のOncoGuide NCCオンコパネルシステムでの方が
有名かもしれません。これについては以下の記事を参照ください。

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