のらくろとの出会い&田河水泡『のらくろ戦後作品傑作集』
のらくろとの出会いは、小学生の頃、小学校の図書室で、戦前の復刻版だった。ちなみに、私は1970年代前半生まれ。
布張りで函入り、カラー印刷の仕様、その面白さ、図案の美しさに心惹かれた。親に頼んで1冊ずつ購入してもらい、戦前復刻版10冊、戦後の続編5冊を手に入れた(続編の絵のタッチの変化は、子ども心に少し残念だった)。
ちなみに、この15冊がいわゆる正伝と呼ばれる。野良犬だったのらくろは、猛犬連隊に入って活躍、その後、幾つかの仕事を経て、最終的におぎんちゃんと結婚して喫茶店を始めて物語は終わる。
正伝の最終巻『のらくろ喫茶店』で、戦前の『少年倶楽部』の連載が収録された『のらくろ漫画全集』の存在を知った。出版社に在庫は無く、八重洲ブックセンターに店頭在庫があったものを購入(親に連れて行ってもらった)。
その後、1984年に『ぼくののらくろ のらくろ50年記念アルバム』が出版され、昭和20年代以降の「のらくろ」の外伝的な物語が、書籍や雑誌の連載で発表されていることを知った。
その代表的なものが『珍品のらくろ草』。それからこの本を読みたい、手に入れたいと思い続け、20歳の頃になってやっと、友人の知り合いの古書店に入手してもらった。大学生の私にとっては、かなり高額だった。
以降も「のらくろ」に加え、「蛸の八ちゃん」や「凸凹黒兵衛」、その他の田河水泡作品を探した。古書店やオークションで購入したり、図書館の蔵書を調べてコピーしたりを続けた。10年以上前に閉鎖してしまったが、田河水泡先生のファンサイトも勝手に運営して、調べてことを掲載した。
その後も、書籍や雑誌、グッズなどを集めていたが、最近衝撃的なことがあった。田河水泡『のらくろ戦後漫画傑作集』(教育評論社、2021年12月)である。
昭和20年代に出版された、のらくろの外伝ともいえる『珍品のらくろ草』『ちゃめけんとのらくろ』『のらくろ三人旅』『龍とのらくろ』の4冊が復刊されたのである。私は年が明けてこのことを知って、早速、保存用と見る用の2セットを購入した。
私は運良く、オリジナルの4冊を手に入れていたが、復刊で出会えるなど思ってもいなかった。かなり前、復刊ドットコムに、田河水泡先生の昭和20年代の書籍や、雑誌連載など作品も含めて、復刊の妄想を書き込んでいたが、書き込みながらも難しいだろうなと思っていた(なお書き込みはあるタイミングで消えていた)。
今回の復刊、関係者の方に、心からお礼を申し上げたい。本当にありがとうございます。
今回の復刊にあたって、4名のテキストが巻末に載せられている。田河水泡先生のご子息の高見澤邦郎氏、弟子の山根青鬼氏、研究者の宮本大人氏と夏目房之介氏である。
私が印象的だったのが、宮本氏のテキストである。この4冊について宮本氏は「戦後の日本で何を目標に生きればよいか分からなくなってしまったのらくろの姿が、あまりにも率直に描かれている」こと、そのうえで戦後10年以上を経た中で「田河の中で戦後を生きるのらくろの歩みがイメージできるようになったところで、迷いの中にあった敗戦直後ののらくろの物語は、なかったことにするほかなかったのでは」とし、昭和20年代を中心とした、この4冊や雑誌連載などの物語が「パラレルワールド的な物語になってしまっている」いう指摘である。
実際、昭和20年代の田河水泡先生がどのように考えていたかは分からないが、その迷いとも言えるような昭和20年代の思いについて、あらためて宮本氏のテキストで気づかせてもらった。
田河水泡先生は、義兄・小林秀雄氏との会話の中で「のらくろというのは、実は、兄貴、ありゃ、みんな俺の事を書いたものだ」と語っている*1。『珍品のらくろ草』をはじめとする昭和20年代の作品には、その迷いも含めた心情が色濃く出ているのではないだろうか。
今回の復刻があまりにも衝撃的で、心を動かされたので、noteとTwitterをはじめた。これまで調べたことや集めたものがあるので、少しずつ書いていければと思う。そんなちょっとしたことが何かしらにつながればと。
なお、教育評論社からは、田河水泡『少年漫画詩集』(2021年6月)も復刊している。今後も田河水泡作品の復刊を期待したい。
*1 『文藝春秋』(1959年10月号)
田河水泡『のらくろ戦後作品傑作集』
田河水泡『少年漫画詩集(復刊)』