優しいわんこ
ママちゃんは、絶対、僕を叱らない。
僕が、絨毯の上に粗相をしても、ご飯を食べこぼしても、おやつをがっついて、ママちゃんの指を間違って噛んでも、ママちゃんは、絶対、叱らない。
仕事で忙しい最中や夜中、僕が徘徊老犬になって、ママちゃんを困らせても、ママちゃんは怒らない。
ただ、その度に僕を抱っこして、「大丈夫、心配いらないよ。」と、撫でるんだ。そして、「きっと、次は上手に出来るよ。」って、言ってくれる。その言葉は、僕に自信と勇気を与えてくれる。だから、もうちょっと、頑張れるかも、と思えるんだ。
僕の名前は、コーディ。年齢不詳の保護犬。3年半前、テネシー州のキルシェルターから、NYCのレスキュー団体を経て、ママちゃんの元に辿り着いた。その時から、人間は、僕の事を、”シニア犬”だと言っている。
3年前、僕はもっと、もっと、自由に動けて、ママちゃんに、”破壊王”なんてあだ名を貰ったよ。だけど、この1年で、どういうわけか、自分の思う通りに身体が動かなくなってきた。大好きなフワフワのベッドから、立ち上がろうとして、よろめいて、床に転がるなんて日常茶飯事になってしまったよ。気が付くと、狭い場所に入り込んでいて、なんで、こんなところにいるんだってもがくけど、全然、抜け出せないこともしばしば。
そんな時、ママちゃんの手が伸びてきて、僕を助けてくれる。そして、あの魔法の言葉を言うんだ。「大丈夫、心配いらないよ。」「きっと、次は上手く出来るよ。」と。
どうして、ママちゃんは、そんなにやさしいの?
僕は、ママちゃんを見上げて、問いかける。
すると、ママちゃんは、言うんだ。
「コーディ、ありがとね。私をこんな優しい人間にしてくれて。コーディのお蔭で、私はなりたい自分になれて最高に嬉しいよ。」と。
そして、必ず、言うんだ。
「コーディは、本当にやさしいわんこだね。」と。
ママちゃんに言わせると、わんこは、みんな信じられないぐらい優しい生き物なんだって。だから、その生き物のやさしさに触れると、人間も、優しい生き物になっていくんだって。
「ねぇ、コーディ、新型コロナ菌より、わんこの優しさ菌が、世界に蔓延したら、きっと、世界はあっという間に平和になるね。」
ママちゃんの妄想は今日も絶好調。だけど、そんな風に、人間たちがみんな思えたら、きっと、それはもう夢じゃなくなるね。