その時のその場所のにおい
2011年3月11日東北大震災のひと月半後、私は地元である宮城県石巻市に戻った。地獄を表現するとこんな感じか、と思うような風景が広がっていた。その悲惨な風景は、今でも、写真やビデオとして残っており、後世の人々も見ることが出来る。
でも、多くの人は知らない。
その時のその場所の”臭い”を。
実は、私の中での被災地の記憶は、その時の異様な”臭い”なのだ。
石巻は漁港で、そこには数多くの海産物加工工場があり、それらが津波で壊滅。つまり、そこにあった魚類が投げ出され、泥と共に埋まっていたり、地面に骨になるまで晒されていた。それだけじゃない。
多くの人たちが津波に攫われ、命を失くした。その遺体の捜索がずっと続いていた。その頃の石巻は、とてつもない臭いに覆われていたのだ。
季節は初春から、梅雨に変わっていった。
6月には蝿が大量に発生したと電話で兄から聞いた。
きっと、石巻の臭いもすごいんだろうな、と思った。
そんな経験以来、私は何かと、”その場所のにおい”が気になるようになった。
例えば、戦国時代の映画やドラマを目にすると、その頃のその場所は、どんな臭い(匂い)だったのだろう?と想像するのだ。
戦場の後に死体が折り重なる画像のインパクトもすごいが、実は、その場所のにおいのインパクトはそれを上回るのではないだろうか?
多分、その場にいられない。それ程の凄まじさだろう。
フランス革命当時の華やかな貴族の生活や貧しい庶民の生活は、絵画やアニメ、映画で知ってはいるが、果たして、その頃のその場所の匂いはどんなものだったのだろう?実は、不衛生だったとの説があるので、めちゃめちゃ臭かったのかな?そもそも、原始時代とかはどんなにおいだったんだろう?恐竜の臭いってトカゲと似ているのかな?いや、考えてみたら、トカゲのにおい知らないな。いかにせよ、原始人たちは、きっと、誰もお風呂に入っていないだろうから、きっと臭いのが普通だったんだろうなぁ。
人間の五感の中で、嗅覚が一番、順応しやすい感覚だそうだ。
部屋に入って、すぐに嫌な臭いだと感じても、そのうち慣れてしまうのもその順応性によるものだ。つまり、その部屋、その街、その土地、その国特有のにおいをその場所にいる人は感じなくなるのだ。
一方で、”あ、この匂い、知ってる。”と、その匂いを嗅いだ記憶が同時に蘇ることもある。それは、脳の仕組みによるものらしい。
抜粋:
実は、人間の五感の中でも、香りを感じる嗅覚だけが記憶をつかさどる海馬という脳の部位にほぼ直接的に信号を送ることができます。
面白いものだ。
嗅覚は、一番鈍感力(=順応性)に優れ、そして、一番、記憶力が良い。
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