なぜAKB48初の海外進出がインドネシア・ジャカルタだったのか?
VRエンジニアたちの会食で表題について話したところ、好評を得たのでここに採録してみます。
これはあくまでも私が個人的に十数年間追ってきた「海外で起きている日本ブーム」調査で得た副産物であって、AKB48の運営会社から公に公表されたものではありません。あくまでも私が導き出した仮説でしかありませんが、読んでいただければそれなりに納得していただけるものと思います。
テレビ東京の番組で、成田空港に降り立った訪日観光客にインタビューを行い、日本旅行に密着する「Youは何しに日本へ?」が好評ですが、番組で出会った観光客のなかに日本語で応じる、しかも日本に来たのが初めてという観光客が度々紹介されているのを皆さんもご覧になったことがあるかと思います。私もITmediaの「ねとらぼ」というニュースサイトに寄稿記者としてこのような日本を訪れた方たちの取材記事を執筆してきましたが、彼ら彼女らの日本に対する並々ならぬ情熱を実感してきました。
彼らが日本語を学ぶ代表的なものがアニメです。1980年代から海外に日本のアニメが輸出されており、一話25分で最低でも13話、合計で約6時間の内容が日本語会話の教材として彼らの日本語を支えているのです。例えば日本で声優・タレントなど多方面で活躍しているロシア人のジェーニャさんは「美少女戦士セーラームーンのアニメで日本語に魅了されました」と語っています。外国語を学ぶ上で最も大切なことがモチベーションの維持ですが、アニメはそのモチベーションの維持として最も有効な教材なのです。
アニメはティーンを第一対象として製作されており、1980年代にヨーロッパに輸出が開始され、多大な人気を獲得しました。フランスでは学校が水曜日に休みとなっており、アニメもこの水曜日に集中的に放映されました。中でも「UFOロボ・グレンダイザー」の人気が沸騰し、視聴率100%を記録、ドラゴンボールや北斗の拳なども軒並みに視聴率60%を超える人気となり、日本の新聞でもこのニュースが報道されました。これらの高視聴率についてJETROパリ支局の方に伺ったところ、「この世代に向けたテレビ番組そのものが少なかった」とのことで、まさに砂漠でオアシスに出会ったような状況だったようです。アニメと特にその原作となる漫画はこの時代には隆盛を誇っていた時代で、日本ではアメリカと同じくすでにテレビ局が多チャンネル化しており、ティーン向けのアニメや特撮番組を大量生産する供給能力が整っていました。
1980年代には多チャンネル化していたのは先進国でも日本とアメリカなどごく少数で、ヨーロッパでは二局程度で番組の供給能力もこれに応じたものでした。その後規制緩和などでテレビ局が新設されると、すでに大量のストックのあったアメリカからはドラマ、日本からはアニメがこれらの番組需要を支えるために輸入されていきました。アメリカはテレビや舞台芸術などのエンターテインメント大国で、英語を母語とするイギリス、カナダ、オーストラリアなどに受け入れられましたが、ヨーロッパの多くを占める非英語圏では日本のアニメも受け入れられていったのです。
フランスでグレンダイザーの視聴率100%ということは、そのときテレビを見ていた子供たちだった人が全員見ていたということで、働いていろいろと余裕が出てきた現在、それを生んだ国日本へやってきて「Youは何しに日本へ」でインタビューに答えているわけです。
アメリカはエンターテインメント大国であり、他の国から進出するのは容易なことではなく、日本から様々な歌手などが挑戦しましたがいずれも芳しい成果が得られませんでした。それは自動車メーカーを多く抱える日本でアメリカ車が芳しい成果を上げられなかったことと同じ構図であり、アメリカのエンターテインメントで満腹状態のティーンにとっては日本のアニメもニッチなものでしかなかったのです。
ティーン向けのエンターテインメントを得意とする日本、そして娯楽に飢えていたヨーロッパのティーンの組み合わせがフランス、そして隣接するイタリア、スペインなどでアニメが人気となっていった最も大きな要因と考えられるのです。であれば、日本のエンターテインメントが狙うべきは飢えたティーンを多く抱える国や地域であって、エンターテインメントの供給能力を備えた国への進出が困難であるということは理解していただけたと思います。
ティーンが多い、つまり人口ピラミッドで末広がりの国や地域はどこか?アジアであれば人口10億を超えるインドや中国が思い浮かべられますが、ご存じのようにインドでは映画製作が盛んでテレビ局も日本よりもはるかに多く、供給能力が高いために進出が困難な国の一つです。中国では自国の産業を保護するために海外の映画やテレビ番組の輸入制限を課しています。その次が実は人口2億7千万を抱え高度経済成長を遂げているインドネシアであり、ここに商機を見出したのがAKB48をプロデュースする秋元康氏であった、というわけです。
まとめ
日本のアニメや漫画はティーン向けに大量生産されており、この世代のコンテンツ需要のある市場を狙え
アニメはモチベーション維持として非常に優れた日本語教材で数万時間分のストックがある