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笠松競馬元騎手二名提訴の妥当性を考える

笠松競馬の元騎手2人が処分取り消しを求めて提訴をしたとの報道があった。内容から筒◯元騎手とT元騎手が提訴したと考えられるが、ネット上では収賄があったという前提で、概ね批判的な反応が見て取れる。

実際に妥当かどうかを判断するのはもちろん司法であるが、分かっている内容から、もう一度この二名について見直してみようと思う。

筒◯元騎手の場合

筒井元騎手は第三者委員会の報告書ではQ騎手に当てはまると思われる。そこで、Q騎手についての部分を引用する。

Q騎手について
 Q騎手は、馬券購入が疑われる者から、情報提供の報酬とみられる金員を受領した。もっとも、Q騎手自身において、当該金員が情報提供の報酬であるとの認識をもっていたとまでは認められなかった

大前提として、先輩騎手や調教師がお小遣いを渡す行為は、地方競馬ではしばしば行われていると聞いている。第三者委員会報告書の最後「付言」でも触れられている通り、一部騎手の年間所得は低く、100万円前後という者もおり、多い者でも300万円台と書かれていた。
調教師になると経済事情は少し違って、この事件の後にドイツメーカーの高級車を購入した調教師もいると言われる。また、ある騎手はつい先日、やはりドイツメーカーの高級車が納車されたらしく、つまり、調教師やトップクラスの騎手とそれ以外の騎手との間にはかなりの収入格差があるのは確かである。
J元調教師も元は騎手であったし、K元騎手ともに若手時代の苦しい経済状況には理解がある。そのため、後輩や若手が頑張っているときにお小遣いを渡す程度のことはあったと聞いているし、実際不自然ではない。

筒◯元騎手に関してはリーディング上位でお小遣いを貰うような立場じゃないのではないか?とも思われるかもしれないが、そもそも調教師と騎手では立場が違うし、5年前の2016年で較べればK元騎手は笠松リーディング1位で獲得賞金は4,646万円、筒◯元騎手は同6位、2,352万円と半分である。

調教師はそもそも上司にあたるし、騎手は同僚である。もちろん、厳密には馬について話すのは一切ダメなのかもしれないが、「今乗ってる馬、どうよ?」くらいの会話はあっても不思議ではない。そもそもJ元調教師は、狭い笠松競馬ではほとんどの馬の状態が分かっていたと言っているので、ダイレクトに馬の状態を聞いていたというよりも、普段の会話などから、ほとんどのきゅう舎関係者から情報を仕入れていたのではないかと思われる。そうであれば、情報提供とお小遣いがセットとして捉えられていた可能性は低いのではないかと考えられ、筒◯元騎手が情報提供料と認知していなかった可能性は十分あるのではないかと感じる?

いずれにせよ、証拠もなく、本人も情報提供の報酬と思っていなかったとなっているので、これで処分するのはかなり厳しいと思われる。


T元騎手の場合

T元騎手は第三者委員会の報告書ではS騎手に当てはまると思われる。そこで、S騎手についての部分を引用する。

 S騎手について
 S騎手は、馬券購入が疑われる者から不自然な騎乗を指示された後に、そのレースの終了後、やはり馬券購入が疑われる者から金員を受領し、組合に報告をしなかった。
 もっとも、金員を受領した回数は2~3回、受け取った金額も1~2万円と少なく、供与される金員の趣旨についても情報提供ないし不正な指示の対価という明確な認識はなかった。また、すぐに自らおかしいと感じて供与を断っている。

T元騎手の場合は少し違って、一つには不自然な騎乗を指示された後に金員を受領していることと、さらには自らおかしいと感じている点で、筒◯元騎手よりもブラック寄りのグレーになってしまった感じがある。
具体的に不自然な騎乗が何を意味するのか分からないし、そのような騎乗をしたのか否かはともかく、金員を渡した人間からは納得のいく騎乗を(結果的に)したということになるのだろう。
また、筒◯元騎手らとは年齢が大きく異なり、ほとんどの騎手・調教師よりも年上である。先輩騎手に「よく頑張ってるねぇ!まぁ、うまいもんでも食えよ」とお小遣いを渡すのは、特に上下関係が明確な競馬社会においては考えにくく、金員の受領の趣旨は不明確だと言われるのもやむを得ないと感じる。

ただいずれのケースであれ、「馬券購入が疑われる者」が誰を指すのかが不明瞭である。それらが既に書類送検され略式起訴をされた四人を指すのであれば、彼らからの聞き取りができなかったことは明記してあり、贈収賄については証拠がなく、本人たちも認識もしていなかった思われることから、やはり処分はできないのではないかと個人的には思う。

いい加減な処分は疑惑を生む

例え処分が重くとも、適性であれば異議をとなえる人はいなかったのではないかと個人的には感じている。例えば、お小遣いも含め、お金をもらった全ての騎手が関与停止になっているのであれば、おそらく筒井元騎手も、高木元騎手も提訴はしなかったのではないか?
前回のnoteで、ある調教師が「結局、正直に話した人間だけがバカを見た。」と言っていたと紹介した。彼は馬券購入に関わったため関与停止処分となったが、他に馬券購入に関わった人間がだんまりを決め込んで処分されていないことに憤然としていた様だった。
最初に第三者委員会などの聞き取りで馬券購入を告白した調教師も、この発言をした調教師も関わった人間の名前を聴聞で述べたと言っている。さらに言えば、関与停止処分を言い渡されたある騎手も、馬券購入に関わった笠松競馬に所属する他の騎手の名前を挙げたと聞いている。
さらになんどか触れてきている馬喰行為については、何人からか告発があったと聞いているが、それでもなお、一切処罰を受けなかった者がいる。

その一方で注目したいのは井上調教師に対する処分である。

最初のnoteでも述べた通り、セクハラは現代社会において許されざる犯罪行為として広く認知されている。また、一度警告しているにもかかわらず行っている点を鑑みても、その処分は厳しくすることはあっても、甘くすることは許されないだろう。
しかしながら、そもそも第三者委員会の調査に含まれるべきかと問われれば、それ以上に調査されなければならなかったことがまだまだあったはずだと感じずにはいられない。

そして、問題は実際の処分である。

調教停止90日は理解ができる。昨今のセクハラに対する情勢を鑑みれば(既に一度警告を受けているという点も踏まえて)一般の会社・組織であれば懲戒免職もあり得るわけで、免許の更新をさせないという判断も十二分に理解ができる。
しかし、きゅう舎貸付不承認というのはいかがなものか。
確かにきゅう舎の貸付に関しては組合に決定権がある事象と思われるが、きゅう舎の貸付をしないということは、免許の有無に関わらず営業を認めないということに他ならない。これが意味するところは、組合による特定の調教師(この場合はI 調教師である)の排斥だ。
しかも、新たにルールを作って、それを適用するという「禁じ手」まで使用しての行為である。最初のnoteで組合は「疑わしきは罰せず」の法諺を理解できていないと書いたが、「法令不遡及の原則」も理解できていないのではないかと感じずにはいられない。

仮に第三者委員会が調教師による馬喰行為や名義貸し、関係者による中央競馬の馬券購入などについても調査をして問題がないと判断し、また別件として井上調教師のセクハラについて調査し処分をしていたのであれば筋としては理解ができる。しかし、実際、そうはならなかった。
告発のあった馬喰行為等については調査がなされず、なぜかセクハラの調査がされ、きゅう舎貸付不承認という意味不明な処分が下されたのだ。

もし、自分が処分を受けた側の人間だったらと考えると、これらを唯々諾々と受け入れることはできないだろう。
その意味でも、今回、提訴という正当な手段で戦うと決めた二人の騎手には悔いの残らないよう、きちんと戦ってほしいと願う。


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