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アンチ岡田(=阪神)への鎮魂歌

【V9の年に生まれた宿命】

 私はプロ雀士なのだが阪神タイガースに脳を支配されている。
 生まれてすぐ、父親がそういう教育をしたからだ。
 ひよこが卵の殻を破って出てきた時、最初に見たものを「お母さん」と思い込むのと同じで、私は阪神が「我が主」のようになってしまったのである。
 3歳の頃、12球団の帽子が売ってあるところで「好きなのを選べ」と父が言ったら、私は真っ赤な帽子に手を伸ばした。
 父は「それじゃないやろ」と、幼い私の手をピシっとはたく。
 私は広島カープを諦めて、次に近鉄バファローズに手を伸ばしたのだが、父は私の小さな手をぐいっとひんまげて、白黒の縞模様の帽子を取らせ、頭に被せた。
 「そうや、これでええんや」
 いや、そうやって無理に押し付けるんなら、最初からかぶせたらええがな。
 父は私にもタテジマの血が流れていると信じ、最初から阪神帽を選択することを期待していたそうだ。

 あほちゃうか。

 私が生まれた1973年は、阪神ファンにとって悪夢の年だった。
 オイルショックやベビーブームなどよりも、讀賣巨人軍のV9が、当時の虎党にとっての一大事であり大惨事だったのである。
 シーズン終盤、阪神は1つ勝てば優勝という状況だった。
 名古屋球場での中日戦。ここで勝てば讀賣V9を阻止できるということで、中日先発の星野仙一は「ほら、真っすぐいくぞ打て!」と言いながら本当に真っすぐを投げ込んできた。
 彼は岡山の高校時代、巨人にドラフトで指名されると聞いていたのにフイにされ、明治大学から中日に入ったから、超アンチ巨人だったのである。
 「次はカーブ!」と言いながらボールを曲げる。
 阪神の打者たちは力み過ぎてちゃんと打てない。
 星野は「しっかり打たんかこら!」と怒鳴りながら、阪神打線をおさえてしまった。
 その球場の横を新幹線が走る。中には巨人の選手たちが乗っていた。
 今日で阪神が優勝するかもしれないが、試合があるから甲子園に向かわねばならない。
 しかし阪神は結局負けて、2日後の甲子園での最終決戦にもつれ込む。
 阪神は引き分けでも優勝だったが、何とこの試合、0対9で敗れてしまった。
 暴徒と化した大勢の観客が客席からグラウンドになだれ込み、それは大変だったらしい。
 26歳だった父は、テレビを見て悔しくてしょうがなかった。
 だから息子を「虎」にしようとしたのである。
 5月に生まれていてよかった。これがもし11月とかだったら、私は名前を「甲子園」とか「虎吉」にされていたかもしれない。

【辞めろという権利などない】

 だから私は自分のことを「阪神ファン」とは思っていない。
 岡田信者というレッテルを貼られたが、どちらかというと私は「阪神信者」である。
 上岡龍太郎がダウンタウン松本に「上岡さんみたいに賢い人がなんで阪神みたいなもん応援するんですか」と聞かれて「それはきみ、阪神は私にとって宗教やからね。宗教である以上、メリットとか意味とかは関係ない。無条件にあがめるものや」と答えていた。
 そうなのだ。
 阪神は絶対なのであり、勝ったからとか負けたからとか、そういうことではなく、人生の一部なのである。
 自分の親の稼ぎが悪いからといって家出もできないし、自分の子供がブサイクだからと言って、どこかに捨ててくるわけにもいくまい。
 それと同じで、阪神が弱かろうとも、応援するのをやめるということはできないのだ。
 ましてや、選手や監督に対して「やめろ」とは口が裂けても言えない。
 厳密に言うと、自宅などでは言っていることもある。
 だが、公の場では、決して言わない。それが信者のつとめだ。
 それに、バカな子ほど可愛いというのと同じで、阪神が弱くても、チャンスでぜんぜん打てないやつがいたとしても、それはそれで愛してしまうのが「阪神信者」なのである。
 まちがってその選手がチャンスで打ったりしたら「お前よかったな、これでまだ一軍におれるよな」と泣いてしまう。ダメ選手でも、自分より若くてたくさん稼いでいるのに、心の底から喜んでしまう。
 それが阪神信者だ。
 だから正直、強くなってからの阪神を応援しているつもりでジャマばかりする「自称阪神ファン」と一緒にしてほしくはない。
 もちろん、新しいファンの中の99%以上が「まともなファン」だと思う。球場にいって応援して、負けて愚痴は言っても、ちゃんと阪神を愛してくれている。
 だが、中には選手のSNSにわざわざ話しかけに行って「怪我しろ」とか「病気になって二度と一軍に戻るな」など、人の心があるとは思えないような酷いことを言う奴もいる。
 こんな奴らに「ファン」を名乗ってもらいたくはない。
 よくないプレーがあって、それを批判したり叱咤激励するのは、まあファンとしては正常な範囲だと思う。
 だが、選手の力が年齢とともに落ちてきていたり、監督の采配が外れて連敗しただけで「辞めろ」とかいうのは、本当それこそ「お前がファン辞めろ」と言いたい。
 いっぺん、自分が大勢の人から言われているところを想像してみ?
 マジでいらない。誰もお前のこと好きじゃないし、邪魔。社会から出ていけ。役に立ってないから会社もやめろ。近所迷惑だからどっか人のいないところへ行け。
 そんな罵詈雑言を毎日浴びせられたらどうなるか、想像してみてほしい。
 選手だって人間だ。
 プロだから負けたり失敗したら文句は言われる。それは覚悟しているだろうけど「辞めろ」というのは言い過ぎだ。進退を決めるのは選手と会社である。
 ファンかもしれないが、お前が給料を支払っているわけでもないのに、辞めろとか言うな。
 私はずっとそう思っていた。
 「岡田辞めろ」という言葉を見るたびに、全員に話しかけて文句を言ってやろうかと思っていたが、我慢していた。
 だが、岡田さんが辞めるという、フライング気味にしても信憑性のある報道がされたタイミングで、我慢ができなくなった。

岡田監督はどんな監督だったか|黒木真生(くろき まさお) (note.com)

 このような原稿を書いて、自分のnoteにアップした。
 最初は、お褒めの言葉をいただくことが多くて、非常に嬉しかった。
 ところが、あるタイミングから急にSNSに巣くう「阪神の足を引っ張る邪魔者ども」が「岡田信者を殲滅せよ」とばかりに攻め込んできた。
 私は誰も攻撃しておらず「岡田さんはこういう人だったと思う」とか「こう考えて野球をやっていたのだと思う」とか「これが原因で今年は優勝を逃したと思う」と、ただ「思い」を綴っただけなのだが、ギャーギャー言ってくる人が大勢いた。
 それでも記事を読んでくれて感想を言ってくれているわけだから、最初は彼ら全員に返事をしていたのだが。
 あまりにも数が多く、また、野球に興味のない麻雀ファンのフォロワーさんたちが迷惑しているようだったので、スルーすることにした。
 ただ、完全にスルーするのは好きではないので、このnoteを使ってお返事することにする。
 ただし有料で。
 
(了)

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