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SaaSは一回死んで、よみがえる

こんにちは。amptalk 黒田です。

amptalkは昨日、シリーズAで10億円のエクイティ調達を行なったことをリリースしました。この不透明な市場環境の中でも大きな期待をいただいた投資家のみなさまに、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

Special thanks to:
グローバル・ブレイン 都さん、清藤さん
Angel Bridge 河西さん、林さん、小林さん、山口さん
Scrum Ventures 宮田さん、マイケルさん、池田さん、早嶋さん
MIC 海老澤さん、元木さん、木村さん、稲垣さん
明治安田生命保険 石田さん
LayerX 福島さん
ナレッジワーク 麻野さん

SaaS is dead?

あえてこの問いから始めると、答えは「Yes」だと思います。
客観的に見て、バブルは弾けたと言わざるを得ません。今回のラウンドで多くの投資家とお話しする中でも、「SaaS」に対する見方が変わったことは強く意識させられました

本来企業価値はキャッシュフローや利益創出、財務指標に強く結びつくものです。「SaaS」というカテゴリはこれまで、投資家からの人気が高かったが故に財務指標以上に高く評価されてきた経緯があります。それは必ずしも成長性の高さだけで説明できるものではなく、性質上将来の予見性が高く、横並びのメトリクスで評価しやすいという投資家目線の理由も強くありました。つまり、プレイブックが成立しやすいということです。

プレイブックがある以上、良くも悪くも先行事例をベンチマークにされます。良い時は良いですが、上場SaaSの業績やマルチプルが下がれば、カテゴリ全体の期待値がそのまま下がります。生成AIの登場はあくまで後付けのきっかけであり、もっと早い段階で「SaaS」への期待は崩れつつありました

日本のSaaSビジネスが持つ本質的な課題は大きく2つだと思います。これが今回ラウンドで向き合ったテーマでもありました。

GTMのハードルの高さ

特に日本において、SaaSがARR 100億円までスピード感を持って到達することのハードルは相当に高いです。アメリカの場合、テック企業のメイン顧客はテック企業自身です。先に育ったテック企業が後輩のプロダクトを購買する、正の循環が上手に回っています。そのエコシステムが日本の10倍でかいので、テック市場を相手にしているだけでかなりの規模まで成長することができます。

他方、日本の場合、テック市場だけではせいぜいARR 10-20億円のオーダーまでしか成長できません。そうなると、選択を迫られます。

  1. テック以外のSMB市場に出ていくか

  2. エンタープライズ市場に出ていくか

前者の場合、テックリテラシーと効率的なリード獲得チャネルが論点になります。後者の場合、セキュリティ要件をはじめとするプロダクトクオリティとセールスオペレーションが論点です。

どちらにせよ、GTMやプロダクト要件が大きく変わるので、そこで一回成長が止まってしまう。場合によっては止まったままになってしまう、という現象が起こります。かなり早期の段階で複数の市場、複数のニーズを相手にしないといけないのが日本市場でスケールする本質的な難しさです。この谷をどう乗り越えるか、解を見つけておく必要があります。

収益化までの時間軸の長さ

当然の話ですが、サブスクリプションは時間軸の中で投資回収するモデルです。

顧客獲得コストを分割払いで回収していくモデル

投資家からの期待成長率を達成しようとすればするほど、必然的に前手前手に広告宣伝費と人件費への投資が嵩むモデルです。中長期的な黒字化を見据えると、粗利をいかに高く維持できるか。特に生成AIをビジネスに取り込む場合、外部のAPIを無尽蔵に叩き続けると粗利はとんでもなく悪化します。いかに構造的な収益性の高さを維持できるか、まず考え抜く必要があります。

そして、顧客獲得コストをスリムにしていくことと、NRRを高く維持すること。これがコンパウンドやマルチプロダクトが求められる理由です。顧客価値を最大化するという目的がまず第一でありながら、経済合理的な着地点として複数プロダクトを既存顧客にアップセル/クロスセルしていくモデルが求められることになります。

「楽」な方に流されない

これらの問いに、簡単な回答はあり得ません。プレイブックもありません。

私が投資家側からスタートアップに飛び込んで感じたいくつかの大事なルールのうち、一つは「他がやっていないことを敢えてやる」です。事業も、組織も、他社の真似事だけでは絶対に上手くいきません。中央値の施策の積み重ねは、中央値の結果に着地します

全てのスタートアップは、まだ誰もやっていない領域でチャレンジをしています。そのチャレンジをやる以上、自分の知恵を振り絞ってスケールと収益化を成し遂げるしかありません。易きに流れず、一つずつユニークに積み上げ続けるしかありません。

amptalkとしてのビジョンを実現するためには、成し遂げないといけないことがいくつかあります。

  1. エンタープライズ市場の開拓

  2. ポジショニングとマルチプロダクト

  3. 強いコスト構造

  4. 組織と実行力

  5. …たぶんもっとある

どれも、少しずつではありますが自分たちなりの答えを見つけて進んでいます。赤裸々ですが、本当に地道な歩みだと思います。それぞれどうやって実現していくのかはまたの機会にまとめますが、気になる方はぜひ直接聞いてください。

生成AIに対する見方

関連して、生成AIの登場を私たちがどう見ているかお話ししておきます。結論から申し上げると、脅威であり追い風です。

ことamptalkにとっては、2022年のWhisperやChatGPTの登場は競争環境を激変させました。文字起こしというこれまでは技術ハードルが相当高かかったピースを、誰でも手軽に手に入れられるようになったことで、直接的・間接的な競合が増加しました。ただ、「高い認識精度と安いコスト」のトレードオフを突破することは簡単なことではありません。生成AIの技術要素は取り入れつつも、ベースになっているのは自社で内製しているAIモデルであり、そこがamptalkの圧倒的優位性にもなっています。詳細は高信のnoteに詳しいです。

生成AIの登場は「追い風」と言った理由をお話しします。

これまでは蓄積してもほとんど使い道がなかった膨大な非構造化データ。私たちが扱う「商談の会話データ」はまさにそれです。昔はテキストマイニングくらいしかやりようがありませんでしたが、生成AIの登場によりこれらのデータを扱う技術的な可能性が広がりました。商談データを要約して吐き出すのは序の口です。案件管理の支援やスキルマップの可視化、顧客とのコミュニケーションの自動化など、これからの時代は商談データをトリガーにして色々な示唆を引き出すことができるようになります。

amptalkのロードマップ

技術の進化をいかに早くプロダクトに取り込めるか。私たちには自慢の開発チームがいます。これもスタートアップの中で学んだことの一つですが、「よーいどんで勝負を始めたら大きい組織は小さい組織に負ける」ということ。大きな組織・大きなシステムはそれ自体が足枷になります。(今はまだ)小さな組織の強みを存分に発揮して、テクノロジーとSaaSモデルを組み合わせながら国内850万人の巨大な営業マーケットを取りに行きたいと思っています。

SaaSはよみがえる

SaaSというカテゴリそのものがよみがえるかは分かりません。定義された、あるいは定義されすぎていた「SaaS」というカテゴリは一回死んでしまいました。ただ、そこから一握り、次の時代をつくる新たな企業が生まれることは間違いありません。

困難な時代は強い人間をつくり、強い人間が豊かな時代をつくる

ロシアの言葉らしいです。私たちが尊敬するあの会社も、あの起業家も、プレイブックなどない時代に自分の頭と手足で道を切り拓いてきたヒーローです。

amptalk自身もそうなりたいと願っていますし、私たちのミッションはそういう人たちが市場を切り拓くための武器として「強い営業」を世の中に増やしていくことでもあります。事業もプロダクトも組織もまだまだ進化する必要がありますが、日々少しずつ実現したい世界に近づいています。

30代、最期に一生を振り返った時に思い出す瞬間をいくつ持てるか。スタートアップでのチャレンジはそういう瞬間に溢れています。

興味を持っていただけたら、ぜひご連絡ください。
一緒にやりましょう。


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