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自由形世代(フリースタイル・ジェネレーション)131
最終章 カム・バック(4)
2(承前)
「水口君は今回の事件について、なんらかの結論を出すことができたかい?」
日向は前置きもなしに、いきなり話を始めた。強面の刑事に、くだけた口調で語りかけることができるのだから、それだけでたいしたものだ。
「ええ、ある程度は。だが、まだ確信を得るにはいたっていません。だからこそ、私はここへやって来たんです」
刑事が答える。
「なるほど。つまり、君は相変わらず、栗山君を疑っているわけだ」
「その質問には、なんとも答えられませんね」
そう答えながら、ちらりと競泳プールを見下ろす。彼が今もまだ亮太を疑っていることは、明らかだった。
「亮太が犯人? あいつが櫻澤を殺したっていうのか? そんな馬鹿な!」
幹成が声を荒らげた。
「警察がどうして栗山君を疑っているのか、春山君──そのへんのことを彼に説明してやってもらえないかな?」
「春山君?」
私とイチミ以外の四人が、怪訝な表情を浮かべる。
「えっと……ニックネームみたいなもので……」
私はしどろもどろに答え、あとは咳払いでごまかした。
日向にいきなり話をふられて戸惑ったが、事件についてもう一度順序立てて説明することで、なにか新しい発見があるかもしれない。幹成のほうへ身体を向け、私は話し始めた。
「《フレッシュマート美神》の従業員――そこにいる荒瀬さんが、最後に櫻澤と出会ったのが午後四時三十分過ぎ。そして、私が遺体を発見したのは四時三十五分過ぎだった。つまり、櫻澤が殺されたのはその間ってことになる。ここまではわかるよね?」
レース展開を確認し、そしてまた幹成に視線を戻す。
「亮太がその日、美神湖にいたことは知ってるでしょ? 運の悪いことに、亮太のアリバイは午後三時半から四時五十分までの一時間二十分に限って成立していないの。彼が《わんぱく村》の展望レストランを出たのは三時半頃、そして遊泳場で管理人さんと出会ったのが四時五十分ちょうど――」
「ちょっと待ってください」
幹成は、私の言葉をさえぎった。
「櫻澤が殺されたのは四時三十分過ぎだったんでしょ? もし亮太が犯人だとしたら、彼は二十分足らずで櫻澤の屋敷から遊泳場まで戻ってきたことになりますよ。そんなの、レイクサイドロードを走らなきゃ不可能です。レイクサイドロードで怪しい人影を見た釣り客はいなかったと聞いてます。おかしいじゃないっすか」
「午後四時三十三分に、櫻澤邸の庭から美神湖へ飛び込んだ人物が存在します。写真に撮られていますから、これは動かし難い事実です」
水口刑事が、横から口をはさんだ。
「つまり、栗山君は犯行のあと湖へ飛び込み、そのまま遊泳場まで泳いだんです。櫻澤邸から遊泳場までの距離は約千五百メートル。十七分間で泳ぐことは決して不可能じゃありません。いや、栗山君にしかできない行動なんですよ」
「まさか。亮太はこの一年半、まともに泳げなかったんすよ。それなのに……」
幹成は、当然の反論をした。
「泳げないというのは、本人がそういっていただけでしょう?」
つづく