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映画『女王陛下のお気に入り』感想





〈ストーリー〉
時は18世紀初頭、アン女王が統治するイングランドはフランスと交戦中だった。アン女王を意のままに操り、絶大なる権力を握る女官長のレディ・サラ。そこにサラの従妹で上流階級から没落したアビゲイルがやってきて、召使として働くことになる。サラに気に入られ侍女に昇格したアビゲイルだったが、ある夜、アン女王とサラが友情以上の親密さを露わにする様子を目撃してしまう。サラが議会へ出ている間、アン女王の遊び相手を命じられたアビゲイルは少しずつ女王の心をつかんでいった。権力に翳りが見えたサラに、大きな危機が訪れる。それはいつの間にか野心を目覚めさせていたアビゲイルの思いがけない行動だった……。
(公式サイトより引用)



18世紀イングランドを舞台に、女王の「お気に入り」の座を巡って没落貴族エマ・ストーンと、かっこいい女ランキング1位なレイチェル・ワイズが火花を散らす。バッチバチの仁義なき女の戦いが見られるぜ!!つってワクワクで視聴したら別の意味で刺さりまくった。









根深い女王の孤独


オリヴィア・コールマン演じるアン女王。
心身共に弱りきって、女王としての重圧に耐えられない孤独な女性。度重なる流産と死産、夭折で喪った17人の子どもたちの代わりに、17羽のウサギを可愛がる姿の不憫なこと…
精神的なストレスが影響したのか、肥満、痛風、過食嘔吐と際限なく病んでいく一方。情緒不安定で家来に当たり散らす始末。
徹底して「可哀想」な方ではあるんだけど、サラは女王をこう評している



女王は並外れた方よ



最初こそアビゲイルに対する「私の方があのひとをよーく知っている」マウントだと思ったけれど、話が進むにつれてあながち本音だったんじゃないかと思えてきた。


事実、アン女王は政治のことをよく理解しておらず、サラに頼りきり。戦争が続いていることを知らずに、一度の勝利の記念にサラに宮殿をプレゼントする始末。
でも彼女は本来、繊細なだけで、心優しいひとなんだろうな。

戦争による民への負担に思いを馳せるだけの器量がある。少なくとも、宮廷内の(ごてごてと滑稽なほどに着飾っている)貴族の誰よりも、民を思う心は持ち合わせている。時折見せる女王としての威厳が、彼女が王族たる所以を感じさせる。
サラはそんな彼女を理解した上で、彼女がこれ以上傷ついたり、孤独の深みに嵌ってしまわないように奔走しているように思えた。

とはいえ。



アン女王を取り巻くふたり、女VS女


サラは幼馴染みで唯一の友人ではあっても、アン女王の哀しみには寄り添ってはくれない。ウサギたちに挨拶すらしない。

だからアン女王は、素直かつストレートな愛情表現(媚びとも言う)を向け、さりげない優しさで汲み取ってくれる(ように見える)アビゲイルを気に入ってしまう。でも決してアビゲイルを選んだとかサラの代わりにしたいというわけではなくて、もっとサラに構ってほしくて、嫉妬させたいんだよな。本当に、寂しくてしょうがない子どものような人なんだよな…


それでも夜もろくに眠らずにサラがアンの傍に侍り国事を担うのは、国への大志とアンへの愛ゆえだと思う。その点、自身の為だけに成り上がる必要のあったアビゲイルにサラの後釜が務まらないのは当然か。
アビゲイルは自分の身を守る為、目的のためならば何でも出来るけれど、逆を言えば自分の器量以上の事はできない。
そしてサラの席は、自分の為だけに闘う席ではなかった。アビゲイルはその席を奪い取れても、真の意味で成り代わることはできなかった。





終盤で明らかにやさぐれるアビゲイル。女王に愛されることも愛することも出来ないまま、サラの作り上げた席に座っているだけ。サラの代わりに収まった席は、自分のための席ではない。その上、自分はその席に座るだけの能力に欠ける。自分には愛も大志もない。
アン女王に宛てたサラの手紙を盗み見て、自分にはない決定的な何かを見て涙するアビゲイルは、本質的にはサラには勝てなかったことを実感したはず。





アン女王は結局アビゲイルの口車に乗りサラを追放するが、ウサギを足蹴にするアビゲイルを見て、ようやく自分がまた大切な者を失ったことに気がつく。しかしもう遅い。サラは戻らない。
調子づいたアビゲイルに女王の権威を教え込むように、彼女の頭を押さえ込み足をもませる。それはもう信頼ではなく単なる主従関係。アビゲイルは女王の側に立つどころか、まるで杖の代わり。しかし、女王もアビゲイルなしで立ってはいられない。
もういないサラを探すかのように涙目で見回す女王が悲しく、そこに喪失の象徴としてのウサギが重なるラストシーン。




人は大切な人を失っても、もう何もかも取り戻すことができなくても、病んでどん底に落ちてしまっても、望むべくして「終わり」は訪れない。
苦しかろうが痛かろうが、死んでないだけの生を消費する虚しさは何物でも埋まらないのだと思う。寂しさは呪いだ。


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