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雨上がりの空に白球は吸い込まれていった
昔から親父との会話は、決まってグローブとボールを通して交わされていた。
いつも帰りが遅い親父に、幼い僕はキャッチボールをねだる。夜な夜な近所の街灯の下で、無言の会話は続く。
「どっちが高くまで投げられるか」
そう言ってよく競いあっていたのを思い出す。
久々に実家に帰った際に、親父をキャッチボールに誘った。
暫く会わないうちに白髪が増え、あんなに大きかった背中がやけに小さく見えた。
「ちゃんとご飯を食べているのか」
「たまには、家に帰ってこい」
珍しく饒舌な親父が、全力投球で投げ込んでくる。
「俺はここが故郷なんだ。絶対にこの街からは出て行かないよ。もし万が一、お前たちに何かあった時に、いつでも"帰ってこい"って言えるように。だから俺は死ぬまでここに居続けるんだ」
どっちが高くまで投げられるか、
いつものようにお互いに空高くボールを投げる。
雨上がりの空に白球は吸い込まれていった。